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誰もいない6月の屋上に、俺の声が響く。
佐上は、黙っていた。だから、俺は続けた。
どこまで言っていいのかわかんなかったけど、とにかく、言わねーとって思ったから。


「そいつのことが、……すげぇ、好きだった。だから佐上の想いには……応えられなくて」


佐上の顔は見れなかった。涙が滲んだ。
好きだったんだ、無意識にまた、口走る。
(森下、)


「……先輩」


佐上が、小さく俺を呼ぶ。
だけどその声は以前のように揺れてはいなくて、俺は佐上を見た。
佐上はうっすら涙を浮かべながら、笑う。


「好きなんですよね」


佐上の言葉に、俺は顔を背ける。
出来るなら逃げ出したい答えだったのに、佐上の声は俺を追ってきた。


「今も、まだ、……好きなんですよね?」
「……」
「その人のこと……、カズの、こと」


佐上の口から出た名前に、俺は再び、佐上を見た。
真っ直ぐすぎるその目に、迷いや疑いはない。
ああ、と思って、俺は苦笑した。

やっぱり、気付かれてた。


「……参ったな」


屋上のフェンスに背中を預けながら、俺はそう言うしかなかった。
かしゃん、と後ろで軋むフェンス。
佐上は、真っ直ぐ俺を見ている。


「……気付いてたんですか?」


少し驚いたように、佐上が言う。
俺は自嘲気味に笑いながら、「ごめんな」と謝った。


「少し前から」


本当は少し前から、俺は気付いていた。
気付かないふりをしてたけど。
気付かないふりをして、逃げていたけど。
本当は、佐上が俺の想いに、気付いてしまった、ことに。


「……カズには、伝えないんですか」


佐上が、静かに静かに言葉を紡ぐ。
俺にはありえない、その発想。
俺は笑った。


「言えると思うか? そんなこと」


言えない。言えるわけがない。
そんなことが、出来るなら。
想いを告げることだけでも、叶うなら。
おれはもっと早くに、あいつに想いを、打ち明けていた。


「あいつに言うつもりは、ねえよ」


このまま、ずっと、いつまでも。
この身を焦がすような想いを隠したまま、抱えたまま。
俺の言葉に、なぜだか佐上は辛そうな顔をした。
そして、やっぱり表情と同じく苦しそうな声で、言う。


「そんなの、……そんなの、駄目ですよ……っ」


だって、それじゃ先輩が報われない。
そう言う佐上は、本当に優しくて、綺麗だと思う。
俺とは、大違いだ。
そんな彼女だから、森下は、佐上を好きになったんだろう。
だから。だから、こそ。


「そんなの、私嫌です……先輩だけそんな、辛い想いするなんて……ッ」
「佐上」
「カズだって、きっと、」
「佐上」


俺のことなのに、必死で言い募ってくれる佐上。
その言葉を遮ると、佐上は俯いていた顔をあげた。
泣きそうな顔をしてる佐上に、俺は、笑った。
(笑うしか、できなかった)
(これでいいのだと、笑うしか)






















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