森下に最後に抱かれてから、もう2週間が経つ。
今までは、3日に一度はあいつの部屋に連れ込まれ、あいつの気が済むようにされていた。
だけどこの2週間、俺は一度も、森下と逢ってもいない。
『馬鹿だね、先輩』
そう、あの日から、一度も。
「……っんなんだよ……ッ」
ズキズキと胸が痛んで、俺はくしゃりと前髪を掴んだ。
別に、森下に抱かれたいわけじゃない。
そこまで溜まっちゃいねえし、好き好んでやってた行為じゃない。
だから、あれで俺たちのイカれた関係が終わってくれるなら、それは俺にとって嬉しいことのはずだだ。
……嬉しいことの、はずなのに。
『せんぱい、』
縋るような、自嘲するような、泣きそうな、そんな笑顔。
あの日ゆっくり確かめるように森下が型どった音は、はっきりと、俺に向けられていた。
それらを思い出す、と、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、もう、何がなんだか。
「……森下……」
かつての、仲の良い、先輩と後輩。
その心地よい関係を、そこにあった均衡を最初に崩したのは、多分、俺だった。
最初は、気の合う可愛い後輩でしかなかった。
1年なのに初めからスタメンに選ばれるほどサッカーが上手くて、その分誰よりも努力家で。
そんな森下になぜか懐かれて(俺はお世辞にも面倒見のいい先輩じゃなかった)、一緒に出掛けたりするようになって。
その頃だ、俺が森下への想いを、自覚したのは。
初めは信じられなかった。
俺は男を好きになった経験なんかそれまでに一度もなくて、そのことで散々悩んで、否定して。
だけど、やっぱり否定しきれなかった。
だって愛しかったんだ、愛しいと感じてしまったんだ。
『松本先輩!』
あいつの、俺を呼ぶ柔らかい声だとか。
あいつの、純粋で無邪気な笑顔だとか。
あいつの全てが、ただ、愛しいと。
だけど、当然伝えることはなかった。
あいつが俺をそういう意味で好きになるなんてありえないことだったし、口に出す勇気はなかった。
何より、そのすぐ後に、あいつが幼なじみに想いを寄せてることを、知ったから。
『俺、好きなんすよ。あいつのこと』
付き合ってる、って噂は聞いてた。それを森下は否定した。
そして、切なそうな笑顔で、そう言ったんだ。
あいつの想いを知ってから、俺はあいつのそういった相談に乗るようになった。自分で自分の傷を広げてるのはわかっていた。
だけどそうでもしねえと、忘れられそうになかった。
何より、ただ、幸せになってほしかった。
(そうすりゃあ、俺も、報われる気がした)
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