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「……は……?」


ヨシノの真っ直ぐ告げた言葉に、混乱した。
意味わかんなくなって、この雰囲気に似合わない間抜けな声が出る。
ヨシノは、変わらず俺を見つめながら、言った。


「初めてやった。こないに、誰かに必要とされたい思うたんは。こないに、誰かを求めたんは」
「……な、に……」


な、に? なに言ってんの、こいつ。
ヨシノの言葉が、すんなり入ってこない。

必要とされたい? 求める?
――誰が、誰に、誰を?

頭バグってる俺を、ヨシノは呼んだ。
綺麗なまんまの目で。静かに、訴えるみたいに。


「……ワカツキ、」
「……っ……」


胸が震える。
今まで、こんなに切なげに、でも大切そうに俺の名を呼んでくれたヤツが、一人でもいただろうか。
それくらいにヨシノの声は優しくて真っ直ぐで綺麗で少し震えていて、俺は目の前が小さく歪むのを感じた。
ヨシノの細い指が、そっと伸びてくる。


「ワカツキ、」


冷たい手。やさしい、て。
目元へと伸びてきたその指は、少し躊躇うように止まってから、またゆっくりと、俺のそこに触れた。
酷く優しい仕草で、まるで割れ物に触れるみたいに、目尻を人差し指でなぞられる。

それは普段の乱暴な触れ方とは全然ちがくて、俺は抵抗を忘れた。
ただただ馬鹿みたいに、ただただヨシノを、見ていた。
ヨシノはすぐに俺の目尻から指を離して、やっぱり躊躇うみたいに、宙でその手を止める。


「……や」


少しの沈黙の後、ヨシノが、小さく何かを言う。
俺は聞き返す余裕なんかなくて、ただぼおっとヨシノを見つめていた。
そんな俺をやっぱり見つめ、ヨシノは小さく表情を歪める。
そして、また、ゆっくり抱き寄せられた。
今度は、そっと、包み込むように。


「……ワカツキ……」


あたたかな体温。優しい体。
それらに包まれると何だか何も考えらんなくて、さっきみたいに抵抗する気にはなれなかった。
ヨシノの声が、近い。
黙っていると、ヨシノは、もう一度言った。



「好きなんや、ワカツキ……」
「……――、」



落とされた、まるで爆弾みてーな言葉に、俺は言葉を完全に失った。
だって、だって、


今、こいつ――なんて言った?


「お前が、好きや。お前に必要とされたい。お前の全部が欲しいんや」
「……ぅ、そだっ……」


言われた言葉が頭を支配すると同時に、俺は無意識に言っていた。頭が痛い。くらくらする。
だけど、どうにかなっちまった俺の頭でも、これだけは理解出来た。
ああ、これは、ちがう、と。


「嘘やない。いつの間にやら俺もわからへん、せやけど、惹かれとった。お前のそばにおりたいて……」


だけど、ヨシノの言葉は俺の考えを裏切って。
だけど、俺はそれを受け止めはしなかった。


「錯覚、だ、嘘、」
「そないなもんと現実を履き違えるほど、阿呆やあらへんわ」


ヨシノがまるで聞き分けのないガキに言い聞かせるみてーに優しく言う。
何だよ。意味わかんねー。今まで、そんな優しい声、出したことなかったじゃねーかよ。
目の前が、回る。
なんで? なんで? なんで?
わかんねーよ、なんでだよ、


「……っうそだ、ぁ……ッ」


そんなん、信じられるわけ、ねーじゃんよ。


「……ワカツキ?」


すぐ横で、ヨシノの優しい伺うような声がする。
なんでだよ。なんでだよ。わかんねーよ。ヨシノ、わかんねーよ……。
何だかしんねーけど、なんか辛くて、体が震えた。
そんな俺を不審がるみたいに、ヨシノは少し体を離し、腕から元からほとんど入ってなかった一切の力を抜く。
俺はそれを利用して、ヨシノの胸を両手で押し離した。
腕にはほとんど力が入んなかったから、ほとんど俺たちの距離は離れなかったけど。


「何なんだよ……なんでそんな下らねー嘘吐くんだよ……! おれはっ、そんな嘘いらねーよ、嘘なんかいらない、……欲しくねえんだ……っ」


ああもう、視界が歪む。
なんだろこれ、なんでこんなくるしいんだろ、新種の病気かな。そうどっかでぼやくヤツがいる。
だけど、今の俺にはそれを言葉に出す余裕は一切なかった。


「……嘘や、あらへんて。俺はほんまに、ワカツキが……」
「っだから! やめろっつってんじゃん、笑えねーんだよそんな冗談……っ!」


必死だった。
嘘?
冗談?
もしくは、錯覚?

なんにしたって、ヨシノが俺を思ってくれるなんて、そんなこと、ありえない。


「……なして、そう思うんや? 嘘やて、そう……」
「っだって……だって、ありえねーよ、ありえねーんだよ、そんなん!」


だって、だって。
(ヨシノ、)


「……ありえねーじゃんか…っ」


お前は俺を選んでくれるには、あまりに、綺麗すぎるよ。


「……ワカツキ」
「ちくしょう、なんでだよ……っなんで、なんで……ッ」


なんで、こんなこと言うんだよ。
なんで、こんな優しく呼ぶんだよ。
なんでこんな、大切そうにさわんの。
なんで、なんでだよ、なんで。


「ヨシノぉ……っ」



あのままの距離を保っていられたら、この気持ちを、きっと隠していられたのに。
(、お前のそばに、いたい、……なんて)
























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