言い返すだけの言葉は、俺にはなかった。
そして、言い返すつもりも、俺には。
ただ与えられる全てに感じて、馬鹿みたいに興奮して、押しあてられた唇を、ただ夢中で貪った。
「んん、っ、は……んンっぁ…っ」
ハスミの舌が、俺の口内と脳ミソをじっとりと犯す。わざと、声を出す。ハスミを煽るように。
だけど、貪る俺とは対照的にハスミの舌は、焦らすみたいに、ゆっくり、それでいて深く。
口内に残る煙草の苦味が、不味くて、美味い。
(い、い、)
いい。きもちいい。なんも考えらんねー。きもち、いい。
「っは、はあ……ぁ……」
「は……っ」
唇が離れて、互いに深いキスの終わりに、乱れた息を吐く。
まだ。まだだ。
まだ、全然たんない。
荒い息のままハスミを見上げれば、欲に濡れた表情で、また皮肉っぽく笑われた。
「……エロい顔しやがって」
「うぁ……っ」
両足の間に入ってきたハスミの足が、俺自身を強く擦りあげるように動く。
その強すぎるくらいの刺激に頭がくらくらして、体から力が抜けていきそうで。
俺は俯いて、ぎゅっとハスミに縋りついた。
「や……、ハ、スミ…っ」
「や? ナニがだよ?」
「こんだけ感じといて、それはねえんじゃねえの?」と。そう耳元で囁かれて、また変な声がもれた。
その声をまた揶揄されて、堪らなくて、腰が揺れる。
わずかに沸き上がる焦れったい快感に、ただ俺は啼いた。
「腰振ってねえでどうしてほしいか言ってみろよ、淫乱」
「ん……っ」
俯いた顔を上げさせられる。
そして首筋に舌を這わされ、ぞくぞくっと背中に快感が走った。
理性なんかない。
プライドも羞恥心もなにも、ない。
そんなの全部投げ捨てて、俺は、
「っは、ハスミ……ハスミッ」
「なんだよ?」
ハスミの声が、笑ってる。
ちゅ、と最後に顎下に口付けて、ハスミは俺の首筋から顔を離した。
今度は俺から、そんなハスミの頬に手を添えて、目線を合わせる。
一瞬ハスミは驚いたような顔をして、それに気をよくした俺は、熱い吐息を吐きながら、自分の唇を舐めた。
ごく、と小さく鳴るハスミの喉。
それを見て思わず笑いながら、俺は、言った。
「はやく……抱けよ……」
はやく欲しいんだよ、はやく、はやく抱いてくれ。
そう言葉を募らせると、次の瞬間、窓際のベッドに押し倒されていた。
ギシ、と軋みをあげるベッド。
視界の大半を占めるのは、ハスミの顔。
押さえつけられてる手首が熱くて、欲情が抑えられない。
無意識に、はやく、と小さく呟いた瞬間、乱暴に唇を、塞がれた。
「んん……! ッん、んぁ……っは、んん……っん、う……ぁッ」
さっきの、焦らすようなキスとは違う。
何もかもを貪るような、呼吸すら許さない乱暴で深いキス。
俺は、腕をハスミの首にまわし、きゅっと抱きついた。
それにまたハスミが唇を深く重ねてきて、さらに濃厚になる口付け。
求められてる。
貧欲なキスに、そんな錯覚を覚えて、歓びと酸欠に頭がくらくらした。
「……煽りすぎだ、クソガキ」
唇を離して、荒い息をする俺に、ハスミはそう言った。
その口元には笑み。
だけど、さっきまでの余裕のある表情じゃなかった。
ずくずく、と、体の芯が疼く。
「てめえが煽ったんだからな……?」
「あ……ッ」
ハスミの手が、俺の服の中に潜り込んでくる。
脇腹を掠めるように撫でられて、甘えた声がもれた。
ハスミは、笑う。
髪をかきあげて、唇を舐めて。
挑発的に、野性的に。
「責任はとってもらうぜ……ワカ」
「――……」
その笑みに、今まで黙ってた頭の一部が、警告を告げた。
まだ続けるのか、と。
こんな意味のない行為の果てに、何があるんだ、と。
本当に俺が求めるのは、なんなんだ、と、。
(頭を一瞬よぎったのは、あの、優しくてつめたい、手)
「っは、……上等」
だけど、それを無視して、俺も、笑った。
ハスミの鎖骨にちゅ、と一つ跡をつけて、そこを掠めるように舐めて。
(だって、だって、俺は)
「満足、させてみろよ」
(俺は、見えない傷の癒し方なんて、これしか知らないから)
夜は、まだ更けない。
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