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「好きなんでしょ、先輩、男に抱かれるの」


思ってもないことが、口から飛び出す。
何で俺っていつも、こうなのかなあ。


「俺以外に、何人の男に抱かれてんの?」


先輩の目が、真ん丸くなる。傷付いたような表情。
あの時初めてアンタを犯したとき以来かな、こんな表情、みるの。


「淫乱」


……わかってるよ、先輩。先輩が、俺が好きだから俺に抱かれてるって。
他の男となんて、ありえないって。
わかってるよ、わかってるけど。


「……っ!」
「っ」


頬に、鈍い痛みが走る。
先輩の力が変わらず強かったせいなのか、視界が揺れた。
ゆっくり何も感じないまま先輩の方を見れば、先輩は、

泣き出しそうな顔をして、いる。


「……痛いじゃん」


それに少し動揺したのを悟られたくなくて、俺は冷たい声で先輩にそういっていた。
すると、先輩は、ぐにゃり、と、その端整な顔を、ゆがめて。

涙を、こぼし た、 。


「……いだ、」


初めて見るその涙に、俺は息を飲み、言葉をなくした。
(だって行為中も、初めてのときでさえ、彼は、それを零しはしなかった、)
先輩は、涙を零しながら、弱弱しく、何もいえなくなった俺に、言う。


「きら、いだ、お前なんか……っ」
「――」
「きらいだ、しね、……きらいだ……っ」


嫌いだ。
そう言いながら泣く彼は、すごく痛々しくて、その言葉は、酷く痛くて。
嫌われて当然、嫌われるためにやってたような行為なのに、……いたくて。


「黙れよ」
「っんん……!?」


思わず、唇を塞いでいた。
黙らせたくて、嫌いだなんてそんな言葉、聞きたくなくて。
今まで絶対キスだけはしなかったのに、しないって決めてたのに、それはあまりにもあっさり、破られた。


「っ、ふ、……ゃ、は……んんっ」


嫌だ、そう言うように、先輩は俺の肩を押し返してくる。
けど、やめなかった。やめれなかった。
今までなら先輩が拒否したらやめたけど、出来なかったんだ。


(せん、ぱい、)


だって、聞きたくないよ。


(まつもと、せんぱい、)


嫌い、だなんて。



「……っ」


乱暴にねじ込んだ舌に、突然鋭い痛みが走った。
唇を離すと、赤い色が混じった銀の糸が、俺と先輩を繋いで、でも、すぐに切れる。
その光景になんだかやりきれない気持ちになった。
荒い息を繰り返してた先輩が、涙をやっぱり零しながら、呆然とする俺を睨む。


「っんで、こんなことすんだよ……!」


それはきっと、今のキスに対してだけじゃなくて。
俺は、答えない。答えられない。


「わけわかんねえよ、俺にどうしろっつーんだよ、俺をどうしてえんだよ……っ」


言えるわけねーじゃん、そんなの今更。
俺のこと嫌ってよ、憎んでよ、嫌わないでよ、好きでいてよ。
俺だって、わけ、わかんねーよ。

嫌われなきゃいけないのも、離れなきゃいけないのも、わかってる。
けど、本当は嫌われたくないんだ、離れたくないんだ、だって。


(だって、)



だって俺、本当はずっと、好きだったんだ。























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