「ミキね、半年以上経った今でもアンタのこと、好きらしいっすよ」
ベッドの上でくつろぎながら、俺は先輩に言った。
眉を寄せた先輩が、ゆっくりと振り返る。
「こないだ、俺んち来てね。松本先輩に避けられてる、まだ好きでどうしようもないから、苦しいって」
「……」
「……また、泣いてたよ? 慰めてあげれば? 先輩得意でしょ、俺に抱かれるくらいなんだから」
俺がからかうように、馬鹿にするように言えば、先輩はふいっと目を逸らした。
痛みを、たえるかのように。
それがなんか面白くなかったけど、俺は笑っていた。
「あいつ、どんな顔するかな。大好きな先輩が、幼馴染の俺に抱かれてよがってるって知ったら」
「……」
「ね、先輩」
先輩は、答えない。
なにも言わない、俺を見ない、その目に何をうつしてるのか、俺にはわからない(知りたいとも、思わない)。
ただ、少し俯いて、小さく唇を噛む。
そんな姿がまた俺の苛立ちと加虐心を煽ってるって、気付かないんだね馬鹿なせんぱい。
「先輩が悪いんだよ」
いつものように、浴びせかける言葉。
それを甘んじて受ける先輩は、何なんだろう(マゾヒスト?)。
「先輩が、ミキに色目なんか使うから。振ったくせに、優しく抱きしめたりなんかするから」
先輩が俺のこと好きなの、知ってたから。
先輩が自分の幸せより、誰かの幸せ願えるの、知ってたから。
ミキが先輩のこと好きなのも、知ってたから。
だから、先輩にはミキが“好き”だって言ったのに、なのに。
「俺がこうやって先輩抱いて慰めてもらうのも、ミキが泣くのも、全部、先輩のせい」
「……っ」
きゅっと強く拳を握る彼。
前よりも痩せたのは、きっと、俺が原因なんだろうね。
「……帰るわ」
少しの沈黙の後、そう小さく呟く松本先輩。
足早に俺の部屋のドアに歩み寄っていく先輩に、俺はベッドから立ち上がった。
「なに勝手に帰ろうとしてんの」
「……っ!」
その細い右肩を掴んで、彼を引き止めた。
少し先輩が開けたドアに、彼の背中を押し付けて、乱暴に閉める。
「もり……っ」
俺を呼ぼうとしたその口を黙らせたくて、俺は先輩自身を押し潰した。
痛みに強張る体。
相当痛いはずなのに、膝をごりごり動かしても、彼は、悲鳴を上げたりしなかった。
「い、てえよ、死ねバカ下……っ」
「黙れば?」
「っつ……!」
一層強く膝で押し潰す。
けど先輩は手で口を押さえて声を殺して。
ムカつく、ムカつく、なんで。
「ねえ、先輩、勃起してるよ?」
「ぅあ……!」
右肩を押さえてない方の手で、彼自身をスラックスの上から撫であげると、びく、っと体が跳ね上がった。
緩くそれは勃ちあがっていて、その光景と思わず漏れたらしい声に、彼は顔を赤らめる。
「や、め……っ」
「やめないよ、先輩慰めてくれるんでしょ? もう一回やらせてよ」
「ッ……森、下…今日は、もう……!」
うん、わかってるよ先輩。
辛いんだよね、早く一人で泣きたいんだよね、俺の前じゃ泣けないんだよね。
でも、そんなに辛いなら、どうして。
「嫌じゃないくせに」
どうして、俺から逃げてくれないの。
←
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!