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俺には、ミキという名前の、小学校からの幼馴染がいる。
美人で、明るくて優しい、非の打ちようのない、すべてが揃った女の子だ。
俺とミキは小学校からずっと同じクラスで、両親が仲がいいから、今でもお互い、よく家に遊びに来たりしてる。
俺は、密やかながら、そんなミキが、“好き”だ。

そして、そんな俺を、松本先輩は、好きになってしまった。



俺と先輩が知り合ったのは、高校のサッカー部(もうすぐ、高3の先輩は引退だ)。
ポジション柄沢山話したり、一緒にいる時間が長かったし、俺と先輩は趣味も好みも気も合ったから、自然と部活以外でも親しくなった。
1年の夏合宿が終わって、そのあとまた仲良くなって。

それからしばらくした頃くらいだ、俺が先輩の中にある気持ちに、きづいたのは。


『お前ってさ、佐上と付き合ってんの?』


部活の後、いつもみたく一緒に帰ってた俺に、不意に先輩が、そんなことを聞いてきた。
秋も深まった頃だったから、部活を終えた頃にはもうあたりは暗くて、先輩の表情はよく見えなかった。
俺はその問いに驚きながらも、言う。


『佐上……って、ミキのことっすか?』
『おー。……付き合ってんのか?』


無関心を装いながらも、先輩が気にしてんのが手にとるようにわかった。
こっちを見ない先輩は、どこか不安そうで、フィールドで見せる余裕のある大きな彼とは、まるで別人だったから。
俺は、少し悩んでから、笑って答える。


『付き合って、ないっすよ』
『……え?』
『やだな、先輩。誰からそんな話聞いたんですかー』


先輩が、こっちを見た。
嘘だろ、って言いたそうな顔。ようやく見えたのは、そんな表情だった。
恥ずかしいな、と言いながら、俺は何食わぬ顔で苦笑する。


『……いや、噂、でな。……そうだよな、お前にはもったいないような美人だしな、彼女』
『なにそれ。ひどいっすよ先輩―』
『はは』


何気ないような会話の中で、彼が自然に顔を綻ばせていくのがわかる。
それを俺は横目で見て、笑みを引っ込めると、ふう、と小さく小さく、ため息を吐いた。


『……やっぱり、つり合わないっすよね、俺とあいつじゃ』
『………?』


俺が告げた言葉に、彼はゆっくり、怪訝そうに、俺を見た。
揺れる瞳。寄せられた眉。
俺はそれに気付かないふりで、情けなく、苦笑してみせた。


『俺、好きなんすよ。あいつのこと』


そう言ってみせた時の彼の表情が、今もずっと忘れられない俺は、どこかおかしいのかもしれない。






* * * * * *




「お前さ、まだ、好きなの?」


いつものような無機質な行為の後、彼はやっぱり、そう俺に聞いた。
毎回毎回、繰り返される質問。
決して俺のことは見ないまま、彼はいつも問うのだ。
きっと、淡い期待を捨てきれないままに。

誰を、なんて、そんなの聞かなくたってわかる。


「ミキのこと?」


でも、わざと聞いてやる。
彼が、松本先輩が、苦しむように。


「……わかってんだろ」


そう不機嫌そうに言いながら、彼は身なりを整える。
先輩と行為をするのは、いつも俺の部屋。
なんだから、誰に見られる心配もない。そんなに急いで身なりを整えて帰らなくてもいいのに。
そうも思うけど、言わない。
期待させるようなこと、ぜったい、出来ないから。


「そうだねー……好きだよ、だいすき」


俺は先輩ににっこり笑いかけた。
横目で俺を見ていたらしい先輩は、「そうかよ」と小さく言って、学ランに手を通す。
俺はベッドの上で相変わらず上半身裸のまま、笑う。


「だから、やってるときに先輩に“カズ”って呼ばせるし、ミキみたいに素直にさせるんじゃん」
「……そうだな」


なら、いい。
そう呟いて、学ランの前をとめていく先輩。
その綺麗な茶髪が、切なげな目が、細い体が。
全部さっきまで、俺の下にあったもの。


「……そうだよ、先輩」


俺は、ミキが好き。
そう言った言葉に、先輩は今度は、反応を返さなかった。



先輩とこんな関係になったのは、先輩にミキが“好き”だと打ち明けた、すぐ後だった。























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