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06



母親は、子どもを産んですぐに他の男と蒸発。今は工場で働いている。休みの日、娘と遊んでいると、そこに公園デビュー?で知り合った奥様と息子が来て、遊び始める。親二人で話す。娘は遊んでいて、少しだけ離れたところでネコを見る。
あの人は、ネコのような人だった。気まぐれで、プライドが高くて、弱みを見せなくて、時々驚くほど無防備で、優しくて。そして、おれのために、おれの知らない場所で、死んだ人。どうしてあの人がそんなことをしてくれたのかは、わからない。ただの気まぐれだったのかもしれない。でも。
「……オレ、今、幸せですよ……ショウさん」
おれは、しあわせにならなくちゃいけない。
酒も、たばこも、クスリも、ギャンブルもやらずに、まじめに仕事をして、しおりには絶対に手を上げない、泣かせない。大切にして、しあわせにならなくちゃいけない。それがあの人との、約束だから。
「にゃあ」満足げに泣いて、ネコが去っていく。それを見送る。
でも、なんでかな。今でも、あんたの夢を見るんだ。あんたが見たこともないような明るい顔で、笑ってる。ただそれだけの夢。しおりがいて、笑ってて。幸せなのに、あんたが忘れられないなんて……馬鹿げてる。
ネコみたいな、あの人。おれは、ネコが死んだ日も、今もずっと知らないままだ。
「おとおさぁん」友達と遊んでいた娘が、呼んでる。見る。クローバー探しをしてた。
「見て見てえ!」そう言って駆け寄ってくる娘。前方不注意で、通りかかった男の人に気付いていない。
「あっ、こら、しおりっ」
どん、と人とぶつかって、後ろに倒れるその人。
「っわ!ご、ごめんなさ……」
「しおり」
「大丈夫か?すいません、大丈夫ですか」その人に近寄って。倒れた足の裾が少しめくれてて、義足だとわかる。手は、傷だらけで無骨。香る、赤マルの香り。その人のすぐ横に、四葉のクローバーが落ちている。
「その子は、ケガ、ねえのか……」
「――」声が。
徐々に顔を見ていく。そして。
「……礼史?」
もう二度と聞こえないはずのあの人の声が、オレを、呼んだ気がした。




ネコが死んだ日。
(あんたにもう一度、会えたら、)



















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あきゅろす。
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