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「っヨウ……!」


離れてく。離されてく。
もう追いかけられなくなったおれは、肩で息をしながら、ヨウを呼んだ。
ヨウが、さらに速度を上げる電車の扉に手と顔をくっつけて、おれを見ている。
向日葵の鮮やかな色が、ちらちら揺れた。


「ヨウっ!」


思いを抑えきれなくて、おれはまた呼んだ。
それに反応するように、その端整な顔が歪む。
もう、限界だったのだろうか。


笑顔を浮かべていた頬を滑り落ちる、涙。


それを見た瞬間、おれは、硬直した。
電車は、止まらない。


「……ヨ、ウ、」


おれのその呼び掛けは、電車の走り抜けてく音に紛れ、掻き消された。
遠ざかり、見えなくなるヨウの姿。

ずきずき、胸が痛み出す。
でも、その痛みをもたらした本人は、もう、見えなくなってしまった。


「……ヨウ……」


最後尾の車両が、おれの横を通りすぎる。遠ざかる電車。
それをおれは、呆然と見ていた。
見ながら、ずっと、ヨウの泣き顔ばっかが、頭の中を回る。
もう10年以上前に見たっきりだった、ヨウの泣き顔。
胸が、痛む。


「……泣いてんじゃ、ねーよっ……」


なに、泣いてンだよ。
お前の夢を叶えるためだろ?
笑ってろよ。
ちゃんと笑えよ。
泣くなよ。
なあ、


「……っちくしょ……っ」


……おれまで、泣いちまうだろ?



ああ、本気で、あいつが好きだった。
冗談じゃなく、勘違いでもなく。
ヨウのすべてがずっと、愛しくて。
これからもきっと、好きなままだ。
変わることはない。

伝えることも、出来なかったけれど。



「……から」


もう届かないけど、届けられないけど。


「待ってるから……!」


叫んだ。
ありったけの声で、叫んだ。
涙声だろうが、気にならなかった。
ただ、叫ぶ。
届こうが届いていなかろうが、そんなことはどうでも良かった。



何年も経って、何十年も経って。
たとえ町も景色も家族も友人も、何もかもが変わっても、おれだけは変わらずに、ここでお前を待ってるから。


だから、変わらないでいてくれ。
ここに戻ってきてくれ。
お前を、待ってるから。
ずっと、いつまでも。



そして。また逢えたら、その時は、言わせてくれ。伝えさせてくれ。
この、狂おしいまでの想いを。
それまでは、きっと。



「待ってるから……っ」


おれの声は、もう誰に届くこともなく、静かに17の夏の中に吸い込まれて消えていった。





蝉の声が、聞こえてくる。
青空の下、向日葵が風に揺れる音が、した。
































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