部誌提出作 白黒予想迷走探偵注意報B 次の日。 「はい、みんな揃ったから謎解きをしようか」 俺達は今美術室にいる。赤空葉菊、リリス、日陰だ。黙っていれば両手に花だ。 「裕ちゃん、この中に犯人はいるの?全員顔見知りじゃない」 「そうです。羊くんはどうしたんです?」 「彼はいいんだ。じゃあ昨日の続きから」 さて、事件の終わりの始まりだ。 「昨日は犯人は足の大きさが24.5で美術部員って所までだったね」 「待って下さい!そもそも何で美術部員なのかの理由を聞いていないです」 話が進まないなあ。 「それは絵画に布が掛かっていたから。布をかけないままだったら絵が白と黒のペンキで汚れてしまうからね。美術部員にとって絵が汚れるのは耐え難い事らしいし」 「それは誰から聞いたんですか?」 「昨日羊君に」 「また会ったんですか!?」 「また会ったら悪いかい?話しを進めたいんだけど」 俺はリリスの返事を聞かずに話し始める。 「それじゃあ、まずは仕掛けの説明から。犯人は目覚ましを利用したんだ」 「目覚まし?」 「そう、正確にはその振動だね」 俺は美術室の外に庄太郎がいるのに気がついた。相手も気づいたようで、虚ろな目でひらひらと手を振ってくる。俺も振り返す。庄太郎はぶつぶつ言いながら去っていった。きっと「帽子がない、帽子がない」とでも言っているのだろう。閑話休題。 「目覚ましから一旦話をそらそうか。天井を見てくれ。絵画とかを展示するために使う金具が沢山ついているだろう。それとこのペンキに埋まっている糸を使うと何が出来るか分かるかい?」 「物をぶら下げる事が出来るんだねっ!」 「そう。それで白いペンキをぶら下げたんだ。でも、それだけだとすぐに落ちてしまう。そこで目覚ましだよ」 俺は部屋の端に移動する。 「ここ、見てごらん。壁の板が外れかけているだろう?」 俺は用意しておいた糸で輪を作り、板に掛ける。そして、板と隣の板の間に目覚ましを挟む。 「こうして、目覚ましを鳴らすと…」 目覚ましが鳴っている振動で目覚ましと糸が動き始め、ぽろりと板から外れる。 「これでがっしゃーん、だ」 こんな事が出来るのも美術部員だけだしね、と付け足す。 「それで、羊君が犯人だけども…」 折角のいいところをリリスが遮る。 「ちょっと!さらっと犯人言わないで下さい!それに羊君の上履きはペンキもついて無かったですし、新しくも無かったですよ?それにパナマの帽子はなんで置いてあったんですか!?」 「上履きは履き古したのをもう一足用意していたんだろう。パナマの帽子は犯人を不確かにするためだ」 「でもそれだけじゃあ羊くんがやったという証拠にはならないです」 「羊君の制服は見ていたかい?」 俺は優しくリリスに問う。 「はい。美術部員だけあって白とか黒の絵の具がついてましたよ」 「それはおかしいなあ」 俺はそう白々しく言い、絵に掛かっている黒い布を取る。 「羊君の作品には黒い絵の具は使われていないのに」 俺はいつものように意地悪く笑う。 「……どうして、そんな事したんでしょうか」 「それは本人に聞きなよ。さーて、これで終わりかな」 「嘘つくな」 今まで黙っていた赤空葉菊が言った。 「犯人は確かに羊ちゃんだけど、黒幕はお前だろ」 「え!?どういう事ですか!?」 リリスは驚き、赤空葉菊はニヤリと猫のような笑みを浮かべた。 「羊ちゃんは絵画以外てんで興味がないからな。推理小説好きじゃないと分からないあれが羊ちゃんに考えつける訳がない。ちょっとした悪戯をしたいんだ、俺以外分からない、とか言えば気の弱い羊ちゃんは断れない。後、この前名探偵に貸しを一つ作ってたしな。違うか、名探偵さま?」 「……当たりです。って俺が犯人だって分かるのなら初めから自分で解いて下さいよ」 「面倒だって言っただろ?」 リリスはまだ納得が行かないらしく、当然の疑問を聞いてきた。 「でもでも!何で裕さんなんですか?」 「それは羊ちゃんと上履きの大きさが一緒だからと名探偵の上履きが新しかったから。普通汚れるから準備期間の一日目には変えないで当日に変えるはずだろ。この学校には上履きに名前を書く決まりはないから、羊ちゃんと変えてもまず気がつかない。というか、自分で起こさない限りこんな事件起こらないだろ」 赤空葉菊の推理は完璧で、俺よりもずっと名探偵らしかった。 「それに、足跡つけるって事は私に解けって意味だろう?うん、面白かったから反省文は原稿用紙一枚と美術室の掃除でいいぞ。生徒達には絶対に分からないようにもする。そもそも五枚なんて書く話がないよな。そうだ、今度から一発芸をやって面白かったら反省文は一枚だけにしてもらおう。きゃー何て凄いの!」 自由奔放過ぎて普通の先生の権限をかなり超えているが、生徒達に分からないのは有り難い。 そして、リリスはさっきと同じ様に俺に問う。 「裕さんは…どうしてこんな事をしたんですか?」 「決まっている」 事件を解くのと同じ理由だ。 「退屈だったからだよ」 [*前へ][次へ#] |