部誌提出作 真夏の青春戦争A ・戦争五日目 記録者 黒塚達紀 恰好よくキメたものの、事態は何も進展していなかった。 「ハロー、タツキ!」 ピンク頭のリリカ、フィッツ・レリリカが俺に手を振る。 「もうミサトもレートも来てる!」 そう言ってリリカは豪邸の中へと入って行った。多少躊躇したが、俺も屋敷の中へ足を踏み入れた。 このピンク頭(比喩じゃない)が陸海部隊の最後のメンバー、リリカだ。外国人(俺達の中ではフランス人という説が有力)で金持ちで、自称魔法使い。この豪邸もリリカの自宅である。勘違いの無いように言っておくと、リリカは男だ。これで分かったと思うが、陸海部隊の由来は「リ」リカ、「く」ろつか、「か」わかり、「い」せ、だ。何故リリカだけ名前なのかは、美里が馬鹿だからだと言っておく。 「じゅうよん遅ーい!」 リリカの自室に入った途端、美里の文句が耳に入ってきた。ちなみに「じゅうよん」は美里専用の俺のあだ名である。 「遅刻はしてないぞ」 「玲斗より後に来た人は遅刻なの!」 「勝手に玲斗を引き込むな」 「別に私の玲斗なんだからいーじゃない!」 「お前の、なんて誰も言ってない」 むう、と美里が頬を膨らませる。全く可愛くない。 「まあまあ、みーちゃんもたっちゃんも落ち着けって。始まる会議も始まんねーよ?」 永遠に続きそうだった俺達の口論を止めたのは、中心人物の玲斗だった。玲斗は自分の話題なのに、他人事のようにへらへらと笑って俺達を諌めた。 また補足説明だが、俺と美里は仲が悪い。噛み合わないとでも言うのだろうか、仲良くなんてことが出来ない。そんな俺達の仲を取り持っているのが、玲斗だ。俺と玲斗は幼なじみで唯一無二の親友である。普通ならそこに美里が付け入る隙なんてものは無いのだが、有り得ない事に玲斗は美里に惚れてしまったので、一緒に居ざるを得ない状況なのである。リリカはペットだ。 「イエス、レートの言う通り!カイギを始めるよ!」 リリカがそう言って勝手に会議を始めてしまった。それに一応リーダーである美里が騒ぎ始める。 「リーダーの話を無視しないでよ!」 そこから先は何故か記憶が曖昧だ。 ただ、会議は全く進まなかったということだけは言える。 ・戦争八日目 記録者 黒塚達紀 もう夏休みに入ってから一週間以上経つのに、敵の空木にまだ会っていないってどういうことだ。 「さ…作戦は、これで…いいわね…?」 ヘロヘロと疲れた様子で言った美里は机に突っ伏した。あの日からずっとリリカの家で会議を繰り返していたのだ。 「オーケィ…」 「ん…」 「いーよ…つーか、枕投げを挟む必要あったか…?」 玲斗はソファに倒れ込んだまま、そうツッコミを入れた。うん、俺達の消耗の大半は枕投げをしたことだと思う。 「いいのよ…友達の家に泊まるなら、枕投げをしろ…って言うわ…」 言わない。 今日も律儀にこんな活動記録をつけてしまったが、必要無かったかもしれない。 「ふふふ……赤空空木、首を洗って待って居なさい…!」 美里が不敵な笑みを浮かべて呟く。まるで悪役のようだった。 ・戦争十日目 記録者 黒塚達紀 十日目にしてようやく、戦争に必要な道具を買い揃えた。 リリカのオカ研(オカルト研究会の略)グッズも減っていたので、補充しておこう。 [*前へ][次へ#] |