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部誌提出作
夢と魔物と犬被りD
「中西ぃー」
「何だ」
「今日俺さ、引きこもりじゃなかった頃の夢見た」
いつもの様に、俺は中西と雑談をしていた。中西とは東さんと違って現実で何かあった訳でも無いが、あんな夢を見た後だったので妙に恥ずかしい。
「へえ。ご感想は?」
「最悪だったよ」
「……外に出る気はないのか」
中西がそういう話題を切り出したのは初めてである。
「無理だ」
「……そうか」
「それにさ、俺、新しい選択肢を見つけたんだよな」
「あの夢の事か?」
「そうそう。あの世界じゃ、俺の外見は『無機物』じゃない。あの世界で……俺は生きていける」
あの世界では俺の外見はブラックウルフとして「無機物」じゃない物である。新しく生きていけるかもしれない、そう思わずには居られなかった。
「……もしあの世界が無くなったら……」
中西はぼそりとそう呟いて、帰って行った。
あれは中西なりの警告だったのかもしれないと気がついたのは、全てが終わった後だった。


人型ドラゴンが死んだらしい。
「みゃ、赤い鎧を着た勇者に殺されたらしーよ」
一緒にウィッチも死んだらしい。
「トドメの一撃の盾になったんだって!魔王さんも一緒に死んだから、盾になった意味無かったけどねぇ、みゃはは」
スライムも死んだらしい。
「君が寝てた昨日も勇者が攻めて来てさー、スライムも魔王さんの盾になっちゃったの!」
そこで俺は初めて目の前にいるメグちゃんを見た。心なしかいつもアニメで見るのとは雰囲気が違って見える。二次元フィルターがかかっていた、という奴か。
「ご感想はどうかなっ?」
メグちゃんは口調とは裏腹に、俺をまっすぐ見つめ返す。俺は何て答えれば良いのか迷った末、答えをごまかした。
「……分からない」
「分からない?ブラックウルフは悲しくないのかなっ?」
メグちゃんは開いた口に手を当てて驚いた素振りを見せる。が、おそらく内心では全く驚いていないのだろう。
「そりゃ悲しいよ…。けど、死んだって実感が湧かない。それに…」
「それにっ?」
メグちゃんは興味津々で見つめて来る。
「…何でもない」
俺の今の感情は彼らが死んだ事に対してではなく、同時に俺の目標や居場所が消えた事に関しての悲しみの方が大きい。だが、それを言うのはあまりにも不謹慎だったので止めた。今、彼らの死を悼まず、自分の事を考えるなんてあまりにも自分勝手過ぎる。
「あのさー、ブラックウルフもとい秋条くんはー、魔王さんに何を求めてたのぉ?」
俺が考え事をしている間黙っていたメグちゃんだったが、唐突にそんなことを聞いてきた。というか、コイツさらっと本名言いやがった!
「いーじゃん、一昨日もう一つの名前がなんたらって言ったんだから!」
「何か突然言われるのは慣れないというか……世界観崩壊じゃないか」
「メグは君の名前しか知らないよ。君の人生とか知らないし、キョーミも無いよっ!」
にっ、と笑うメグちゃんを見て俺は気が付いた。アニメと違ってこっちのメグちゃんは毒舌なんだ。どうでもいい事だが。
「折角だからぶっちゃけちゃいなよ!」
「……俺が秋条の時、俺は魔物と同じ様に……迫害、されていた。それで、俺は逃げた」
俺は無意識にメグちゃんから視線を逸らす。メグちゃんはふざけずに黙って聞いてくれた。
「でも、ここの魔物達は……魔王は俺と違って逃げずに戦っている。俺はさ、逃げない選択をした先、ってのを見たかったんだよ」
「………」
「秋条の俺も今更生き方変えられないし、じゃあブラックウルフの俺を現実として暮らすのもいいかーと思ったんだ」
「ホントに生き方を変えられないと思ってる?」
メグちゃんの手が俺の顔に近付き、俺の視線がぐいっと引き戻される。
「生き方を変えられないなんて、そんなの嘘なんだよ」
「っ、適当な事言うなよ!」
まっすぐ俺を見るメグちゃんに嫌な事を思い出して、メグちゃんの手を振り払った。メグちゃんとアイツらを重ねるなんてメグちゃんが可哀想だ。
「……きっかけさえあれば、誰でも変われるんだよ。みゃは」
そう言ったメグちゃんの顔は少し寂しそうだった。
「ほら、ウィッチが待ってるよ?」


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