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部誌提出作
夢と魔物と犬被りC
「あがっ!」
ベッドから落ちて、俺は目が覚めた。
あの後、俺は人間に噛みついたり突進したりと頑張って戦った。戦いの初心者だからそんな物だ。それで、人間が逃げ出した時、疲れがどっと出てその場で眠ってしまったのだ。それで今日はおしまい。もう少しあの世界に居たかった。
コンコン、とノックする音が聞こえる。
「あ…秋条、くん…」
「え、東さん!?」
まだ東さんが来る時間には早いだろうと思ったら、既に夕方だった。
「マジか…ずっと寝てたのか…」
そんな事を言っても時間が巻き戻る訳が無いので諦めるしかない。
「ふふ、寝過ぎだよ」
俺達は昨日の事なんて無かったかのように、変わりなく話した。違ったのは、帰る直前の東さんの様子だけだ。
「ひ、一つ、きたいんだけど……」
「何?」
「秋条くんって……」
「……?」
「……やっぱいいや、何でもない。じゃあね!」
ぱたぱたとスリッパの音を立てて東さんは帰って行った。
ホワイトデーのクッキーを渡し忘れたことを、今更思い出した。


どうしてだか、今日はあの世界には行けなかった。
とは言っても夢を見ていない訳ではない。むしろ最悪な夢を見てしまった。
「………」
俺がまだ引きこもりじゃなかった頃の夢。
「………」
朝、家から出るとクラスメイトが居て、俺を見ていた。
彼らは話し掛けるでもなく、見るだけ。
俺は視線を感じながら一人で学校へ行った。
「………」
始業前、教室に入るとクラスメイト皆が俺を見ていた。
だが、俺は誰からも話しかけられず、無言で過ごした。
「………」
授業中、俺は教卓の目の前の机で無言のまま授業を受けた。
クラス全員が俺を見ていた。
「………」
昼、学校内の何処へ行っても人が居て、俺を見張っていた。
俺は人の視線を浴びつつ、孤独に昼飯を済ませた。
「………」
放課後、学校を出ると数人の生徒がついて来た。
視線を感じながら一人で家に帰った。
「………」
俺はいじめられていた。理由は何だったか、容姿に関する事だった気がする。暴力を振るわれたり、教科書を隠されたりはされない。俺へのいじめは「俺を見ること」だけだった。
無言で俺を見る。話しかけても黙って俺を見る。ただ、見るだけ。
俺は確かに存在はしていた。しかし、皆が俺を見る目はもはや人間を見るそれではなく、何となく無機物に目を向けるような、感情の無い視線だった。
そんな視線を浴びながら毎日を過ごすのは良い気分な筈が無く、俺は神経をすり減らして行った。
俺の神経がほとんど限界に近くなったとき、決定的な事件が起きた。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
とある授業が自習になったのだ。その時、クラスメイトは全員黙って俺を取り囲み、永遠と見続けた。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
授業終了のチャイムが鳴った瞬間、とうとう俺の心が折れた。
「……はあ…っ、…は……っ!」
段々息が苦しくなってきて、呼吸が出来なくなった。俺は椅子から倒れるように転げ落ちる。後から聞いた事だが、過呼吸を起こしていたらしい。
過呼吸でパニックになりながら、俺は何処かで嬉しく感じていた。この状況ならば、流石に皆驚いて俺を人間として見てくれるだろう。俺を助けてくれるだろう。そう思っていた。
苦しみながら、取り囲んでいるクラスメイトを見ると。
全員が変わらず俺を見ていた。
驚いた様子も、慌てた様子も、心配した様子も、喜ぶ様子も無い。先程と全く変わらずに俺を見ている。
「……――っ!」
心の底から人間というものに恐怖を感じた。
その時からだ、人の視線に耐えられなくなったのは。
俺の外見という「無機物」を人に見られるのが恐ろしい。家族の視線でさえ、恐ろしい。
「じゃあ俺がお面とか付けたらどーだよ?」
そんなの、分からない。試したことが無いから。
「じゃ、試そうか」
……それでまた過呼吸になったりしたらどうすんだよ!
「俺が助けてやる」
そう言って扉をこじ開けた中西は、メグちゃんのお面をしていた。
久し振りに人間と面と向かって話せた俺は、不覚にも泣いてしまった。それを見て中西が爆笑したことさえ、俺は嬉しかった。
俺は無機物として存在しているんじゃない。
生きているんだ。


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