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部誌提出作
夢と魔物と犬被りA
「ここが魔王城の入り口だよ」
「……城っていうか、洞穴?」
「しょうがないじゃないか。初めはただの洞窟だったんだから」
今日の夢は昨日の続きだった。多少飛んではいるが、俺とウィッチは魔王城へと歩いていた。
そんなわけで、目的の魔王城へ着いたのだが……入り口がただの洞穴にしか見えなかった。上の方は立派な城に見えるのに。
「あー、でも迷路を通るのは面倒だねぇ。そこの窓まで跳んで乗せてっておくれ」
ウィッチはそんな事を言い出したかと思うと、俺の背中に横乗りになった。忘れているかもしれないが、現在俺は犬(狼とも言う)で、しかも大きい。ウィッチ位だったら軽々乗せられる大きさだ。
夢の中とはいえ、人(正確には魔物だが)に触られるのは何年ぶりだろうか。無意識に体が震えた。
「そこまでひとっ跳びだからさ、アンタなら余裕で跳べるレベルだよ」
俺の体の震えをどう受け取ったのか、ウィッチは俺の頭を軽く撫で、気安い調子でそう言った。
「……わ、かった」
夢の中なので躊躇せず力一杯地面を蹴ると、俺の体は楽々と浮かび上がり、何メートルか上にあるテラスへとあっさり着いてしまった。
「余裕だったろ?」
「……ああ、いい気分だよ」
現実では体験出来ない感覚に俺は別の意味で震えていた。いつになく気持ちが高ぶり、今すぐにでも外を駆け回りたい位だ。
「ウィッチ」
そんな興奮を一人で噛みしめていると、窓の所から低音の格好いい声が聞こえた。本筋と全く関係無いが、このイケメンボイスだけでコイツはリアルが充実している奴、つまりリア充だと俺は判断した(後になってその判断は間違っていなかったと知った)。
「人型ドラゴン、居たのかい」
「気がついていてここに来たくせに」
ウィッチが俺から降りながらその人物に話しかけ、彼も小さく笑って答えた。この人物が噂の魔王のようだ。
濃藍の髪から伸びる二本の角、青い鱗の生えた大きな手、ビームでも出せそうな鋭い黄金の眼、そして嫉妬する位のイケメンな顔!名前はともかく、文句なしの魔物だった。
「この魔物は?」
人型ドラゴンを眺めているとばっちり目が合った。目を逸らすのも負けた様で嫌なので、じっと見つめ返す。
「………」
「ブラックウルフだよ。さっき拾ってきた」
何も言わない俺に代わってウィッチが言ってくれた。
「そうか。ブラックウルフ、私は君を歓迎する」
態度最悪の俺に気分を害した風もなく、むしろ嬉しそうに、人型ドラゴンは言った。
「ようこそ、魔物達の城へ」


「つまりさ、俺は本当は外に出たいっつーなのかなぁ」
「知るか、俺に聞くな」
引きこもりの俺に会いに来る人物は東さん以外にも一応居る。それがこの野郎、中西だ。俺が引きこもりになった時も唯一外に出させようとせず、扉の前で馬鹿笑いした野郎だ。小学校からの付き合いであるが、名前を呼ぶのはムカつくので名字呼びである。
「お前が夢で見た事なんて、俺にとってはどーでもいいんだよ。勝手に魔女でも魔王でもらぶらぶしとけ」
「意味分かんねえよ!」
今更であるが、俺はオタクだ。引きこもりをやっているとやる事が無くてパソコンに走ってしまい、結果オタクになった。俺はオタクだから引きこもりになったんじゃなくて、引きこもりだからオタクになったんだ。ここ重要。ちなみに中西もオタクである。
そうなると、俺と中西がする話は必然的にオタクがするような話が多くなる。もちろん、普通の話だってするし、今みたいに俺が見た夢の話をすることだってある。
「……そろそろメグちゃんの誕生日だな」
「ん?ああ、だな」
メグちゃんとは「魔女っ娘☆めぐめぐ」というアニメのキャラだ。我ながら痛い。ちなみに今の会話を振ってきたのは中西だ、断じて俺じゃない。
「いつだっけ」
「馬鹿が、三月十四日に決まってるだろ。だからお前は引きこもりなんだ」
とても罵られた。
「……キャラの誕生日って一々覚えてるもんなのか」
「当たり前だ。三次元に居ないってだけでメグちゃんは存在するんだよ、馬鹿が」
「……そっか」
あの夢は俺が外に出たいからとか暗示みたいなのじゃなくて、魔物達がただ単に生きているのを俺が見ているだけなんじゃないか。だとしたら、魔物達も三次元に居ないというだけで、存在しているのかもしれない。そう納得した。


 それから一週間経っても俺はまだ夢を見続けている。いつの間にか夢を心待ちにしている自分が居た。
「あの……」
俺の目の前には緑色の塊が居る。初めて見る奴だ。
「僕、スライムって言います。よろしくお願いしますね」
「あ、ああ。俺はブラックウルフだ」
スライムはむにゅむにゅと動いた。何だかコミカルな動きで可愛らしい。
「ブラックウルフさん、人型ドラゴンにはもう会いましたか?」
「さん付けは良いよ。城に来たときすぐに会った」
「そうですか!……えと、ブラックウルフは彼の事をどう思いました?」
「すげぇ良い奴だと思ったな」
この答えはお世辞ではなく本心の言葉だ。俺の中で魔王は、とても良い奴の部類に入っている。出会ったときはイケメンぶりに少し嫉妬したが、それが吹っ飛ぶ位魔王は良い奴だった。それを聞いたスライムは(多分)嬉しそうにもにゅもにゅ動く。出会って一週間しか経っていない俺でもこうなんだ、この魔王城で魔王の事を好きじゃない奴なんて居ないのだろう。
「えっと、えっと……すっごく唐突なんですけど……僕、ブラックウルフにお願いしたいことがあって……」
もじもじと動く仕草はスライムなのに恋する乙女のようでとても可愛い。そんな姿を見て断る奴は漫画に出てくる悪魔位だ。ちなみにここの悪魔は菜食主義の優しい奴らだ。
「何?魔物はみんな仲間なんだからさ、遠慮しないで言ってくれよ」
「じゃ、じゃあ……」
そう言ったものの、スライムはなかなか言い出せないようだった。口を開いたのは一分程経ってからである。
「……人型ドラゴンの……誕生日パーティを開こうと思うんです。そのパーティの準備を手伝って欲しくって……」
「誕生日パーティ……?」
魔物も誕生日とか覚えているのか、そんな人間的な考え方が顔に出ていたらしく、スライムは続けて説明してくれた。
「二十年前に僕と人型ドラゴンが初めて会った時を誕生日にしようってウィッチさんが言ってくれたんです」
もじもじするスライムは何故か照れている。何だろう、この「付き合って○年記念!」みたいなの。
「……スライムってさ、雌雄あるの?」
「な、何で突然!?も、もちろんありますよ!」
「じゃあどっちなんだ?」
「……め、メスです」
「マジで!?僕って言ってるからオスだと思ってた……」
「スライム種はみんな『僕』なんですっ!っていうか!手伝ってくれるんですか、くれないんですかっ!?」
「そりゃもちろん手伝うさ」
たぷたぷ揺れて怒るスライムにへらりと笑いかける。魔王の誕生日パーティだ、手伝わない筈がない。
「ズバッと聞くけど、どうなんだ?お前、魔王の事が好きなんじゃないか?」
何故俺がさっきの質問をしたかと言うと、ぶっちゃけこれが聞きたかっただけである。初対面の俺さえ勘ぐって、いや、分かってしまう程のあからさまぶりだからな。
「え……」
俺の質問にスライムは固まっていた。グリーンスライムがだんだんレッドスライムに変わってきている。
「そ、その好きってどういう、」
「そりゃラブの方だろ」
「……ひ、人型ドラゴンの事は……す、好き、です、けど」
なんで魔物は人間と違ってこう素直なのだろう。単純ともいうが。まあ、俺は面倒臭い人間よりもこんな素直な魔物達の方が好きなのだが。スライムはレッドスライムになったばかりか、体内から気泡が浮かんできていた。沸騰するかもしれない。
「人型ドラゴンには、ウィッチが、います、から」
しゅぼっ、と音がして頭から水蒸気が出た。そろそろマズいかもしれないので、これ以上追求するのは止めておいた。確かにあの二人は良い雰囲気だったし、付き合っていてもおかしくはないかもしれない。
「パーティの日、忘れないで下さいね!」
落ち着いたスライムはそう言ってそそくさと去っていった。
人型ドラゴンの誕生日は、偶然にもメグちゃんと同じ三月十四日だった。


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