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部誌提出作
怪談ループD
ふと、気がついた。
私は何度死んでいるんだろう。私は何度おかしくなったんだろう。
そう、今回は記憶があった。
「……っ、いやあぁああああァァァ!」
溢れ出す惨殺の記憶。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
でも、叫ぶ。
子供の幽霊が来たって、殺人鬼が来たって構わない。
気が狂いそうになる程叫ぶ。
だって叫んでないと自分の殺された痛みと私だった肉塊を思い出して本当に狂ってしまう。
しばらくそうしていると、不意に肩を叩かれた。
「よお、優」
「きゃあっ!」
「おいおい、そんな反応ねーだろ…ってまあ仕方ないか」
怯える私の耳に聞こえたのはここでは到底聞けない日常の言葉だった。
「しゅ…うや君?」
そこにはこの学校の男子制服を着て右目に眼帯を付け、手には斧を持った少年が居た。眼帯こそ見覚えが無かったものの、その姿は1ヶ月前までほぼ毎日見ていた人物だった。
「おぉ、まだ覚えてたか!そーそー、仁院終夜だよ」
「な、んで…死んだはずじゃ」
1ヶ月前、仁院終夜は死んだ。チェーンソーを持った連続殺人犯に殺されて。
「………」
終夜君は唐突に無表情になる。もしかして…自分が死んだって知らなかった!?それとも怨霊になったの!?
「…なーんてな!」
「え?」
終夜君は無表情から一転ぱっと笑みを浮かべた。
「俺が死んでる事位とっくに自覚してるさ。俺が怨霊になったとでも思ったか?」
「だ、だって終夜君死んでるし…」
私がそう言うと、終夜君は徐に右腕をまくって見せた。
「義手!?」
「死んだ時、右腕が切られてただろ。右目も無い。普通幽霊になったらこうじゃないと思う」
そうかなあとか思ったけど、黙っていた。終夜君はそれを感じ取ったのか、付け加えるように言ってくれた。
「俺も死に続けてた」
「っ!?」
「今回は二十一回目。でも死にたくなくて、これであいつらを撃退してきたんだ」
言いながら持っている斧を見せる。
「優のもこれで撃退してやる。二ノ宮金次郎像とかはさすがに無理だけどな」
にかっと笑った終夜君に私はすごく安心した。
「…いつかこれで俺を殺したヤツを殺してやりたい」
私は終夜君の異常な言葉には特に何も思わなかった。それよりも気になったのは。
「犯人は…もう死んでるよ?」
「……え…?」
終夜君は信じられないという風に片方しかない目を大きく見開く。
ぴきり、と音を立てて時が止まった。

そして、
時が、
ループした。

私は気がつくと、制服姿で誰もいない廊下に立っていた。
辺りを見回しても終夜君は居ない。
そして私は、
思い出しても居ないのに惨殺の記憶を思い出した。
「……っ、いやあぁああああァァァ!」
強制的に発せられる悲鳴。
その続きは分かっている。
「よお、優」
「きゃあっ!」
「おいおい、そんな反応ねーだろ…ってまあ仕方ないか」
斧を持った終夜君が私に話しかけた。
「しゅ…うや君?」
「おぉ、まだ覚えてたか!そーそー、仁院終夜だよ」
終夜君はさっきと全く変わらぬ顔でにかっと笑った。
「終夜君…」
私は終夜君の存在を確かめるように右手に触れた。
「あれ?死んでるのに何でって聞かねーのか?」
「分かってるからいい…大丈夫…」
私はじっと終夜君を見つめる。
……多分、彼も怪談に取り込まれているのだ。
彼は殺され続ける側ではなく、殺し続ける側。
彼は殺人鬼に殺され、殺人鬼になってしまったのだ。
何で分かるのか?
だって、終夜君が怖い顔して私に斧を振り下ろしたから。
「お前が…そうだったのか…っ!」

私は気がつくと、制服姿で誰もいない廊下に立っていた。
「これで…二十一回目」
終夜君に殺されてから私はまた記憶が無い状態で殺され続けた。
そして私は、
思い出しても居ないのに惨殺の記憶を思い出した。
「……っ、いやあぁああああァァァ!」
強制的に発せられる悲鳴。
また…終夜君なのか。その続きは分かっている。
「よお、優」
「きゃあっ!」
「おいおい、そんな反応ねーだろ…ってまあ仕方ないか」
斧を持った終夜君が私に話しかけた。
「しゅ…うや君?」
「おぉ、まだ覚えてたか!そーそー、仁院終夜だよ」
終夜君はさっきと全く変わらぬ顔でにかっと笑った。
「終夜君…」
私は終夜君の存在を確かめるように右手に触れた。
「あれ?死んでるのに何でって聞かねーのか?」
「分かってるからいい…大丈夫…」
私はじっと終夜君を見つめる。終夜君を成仏させるにはどうしたらいいんだろうか、私がこのループから抜け出すにはどうしたらいいんだろうか。
「終夜君」
「ん、何だ?」
「ここで…待ってて」
私は終夜君の答えも聞かずに走り出す。とりあえず図書室へと走る。
図書室に入ると急いで扉を閉める。
「はっ…はっ…」
怖い、終夜君が怖い。殺人鬼の終夜君も優しい終夜君も怖い。
人はあんなに変わってしまうのだろうか。
終夜君の全てが、怖い。
他人同士のように、通り魔と被害者のように、躊躇なく。終夜君は斧を振り下ろしたのだ。
今回の終夜君はまだ豹変しては居ない。その内に…何とかしないと。
ぱたり、
不意に何かが落ちて来た。
「…雑誌?」
それは怪しげな霊能雑誌った。しかも終夜君が死んだ次の月。こんな偶然、あるのだろうか。
それがあったはずの場所を見ると、真っ黒な本が置いてあった。
「呪いの、本…」
私はこの助けをありがたく受け取る事にして雑誌を読み始めた。
【連続殺人鬼の犯人は違う?幽霊の話す真実!】
この記事だ!私は終夜君に関係あると思われる部分を読み直した。
【幽霊は皆一様に『殺人鬼は学校の制服を着ていた』と語っている】
多分、これで終夜君は勘違いしているのだ。犯人は死んでいるのに。
いつの間にか、私の服は制服に替わっている。
ぱた、とまた本が倒れてきて落ちた拍子に本が開いた。今度は終夜君の死んだ月の新聞の縮刷版だった。
開いたページには【連続殺人犯、死亡!】の文字。
「………」
いくつか矛盾する点がある。…が、私にはそれを解明する術が無い。
うまく騙せるだろうか。
からり、と図書室の扉が開いた。
「………居た」
終夜君だった。
「っ!」
「お前が…そうだったのか…っ!」
ああ、もう考えちゃったのか。
私は縮刷版を持って、終夜君が居るのとは別の扉から逃げ出した。
多分私が抜け出す条件は…殺されないで元居た部屋に戻る事。その為には終夜君が成仏するのが必要だ。
「待て!」
走り出す。多分長くは保たない、が。
私の隣を二宮金次郎像が通り過ぎた。
「がっ」
終夜君のそんな声が聞こえた。
私は逃げるのを止め、終夜君の方を向く。
二宮金次郎像は居ない。居るのは倒れている終夜君だけ。
「こ、ろす…」
骨が折れている筈なのに、終夜君は立ち上がった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
終夜君は斧を振り上げ、私を殺そうと走ってきた。
「終夜君!」
私が終夜の名前を言っても終夜君は動きを止めない。予想はしていたけど、結構ショックだ。でも、そんなこと考えてる暇なんてない。私は用意していた言葉を言う。
「犯人はもう死んでる!」
言うと同時に新聞の縮刷版を突きつけると、終夜君はぴたりと動きを止めた。
「……え…?」
終夜は信じられないという風に片方しかない目を大きく見開く。
「し、んだ…?」
「そう、死んでる」
足が震える。これで終夜君が成仏しないならまた私は記憶を失う。ループする。
「終夜君の復讐はもう終わってる」
私はその続きを言おうとした。
「……………『殺さないと』」
不意にぽつりと終夜君が呟いた。
「『殺さないと』『殺さないと』『殺さないと』『殺さないと』『殺さないと』『殺さないと』殺さないといけねぇんだよ!」
終夜君の手に力がこもり、再び斧が振るわれた。
…斧が当たる直前、何故だか死装束の少年の事を思い出した。
「……っ、――君っ!」
ガッ、
斧が肉にめり込み、切り裂いた。
その肉は私のではない。私の前に立った少年だった。
「大丈夫?『僕の友達』」
真っ白な死装束が真っ赤に染まっていった。
「今度こそ、ちゃんと言ってね」
少年は出会った時と変わらない微笑みを浮かべて、消えた。
「…っ!」
私も終夜君も動けなかった。
先に我に返ったのは私の方だと思う。
少年の言う通り、今度こそちゃんと言わなければいけない。
「終夜君は殺人鬼じゃないんだよ」
私は続きを言った。
「だから終夜君に人は殺せないし、とっくに死んでいる人も殺せない」
終夜君の手から斧が離れた。
「あなたの夜はもうとっくに終わってるんだよ…」

その斧が地面につこうかというとき…。

ぱきん、と何かが割れる音がした――

気がついた時、私はトイレの鏡の前に居た。
「お、わった……?」
私は呆然と呟く。これが現実かまだ信じられなかったのだ。
でも現実だ。
だって、記憶があるから。
だって、空が明るいから。
私の夜も終わったのだ。
私は生き残れたのだ。
私は走って走って走って部屋に戻った。もちろん殺された場所は避けて。
「玲!」
「…ほぇー?」
部屋に入ると真っ先に怖がりの友人を起こす。
「んー…怖い夢でも見たのー?」
私は何も言わずに抱き付く。温かい。玲は生きているのだ。もちろん私も。そう実感した。
「優ー、大丈夫だよぅ。もう怖いことはないよ」
玲はそう言って頭を撫でる。玲の行動のお陰で私は心から安堵した。
「悪夢は終わったんだよ。だいじょーぶ」
そうだ、私の悪夢は終わったんだ。
「私が殺してあげるからもう何も怖い事は無いよ」
ぎゅいん、とチェーンソーの音がして私の首が飛んだ。
「ほら、もう痛い思いはしないよ」
そのチェーンソーの殺人鬼は、制服を着ていた。

【殺人鬼を探す殺人鬼、鬼のチェーンソー】


2009年作成

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