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部誌提出作
怪談ループB
「ねむ……」
私は保健室の前でそう呟いた。少し探検しようと思って学校内をうろうろしていたら、夜中なのでやっぱり眠くなってしまった。
マズい、意識が朦朧としてきた。駄目だ…目が開かない…。
私はふらふらと保健室に入っていった。
「やあ、『僕の友達』」
私はベッドに倒れる様に眠りについた。
体が揺さぶられているのを感じて、意識が浮上した。
「おはよう」
ぱちりと目を開いた先には、和服姿の少年が居た。
「え?」
少年はにこりと微笑む。
「よく眠っていたから起こさなかったんだけど…ちょっと生きてるのか不安になっちゃって」
御免ね?と少年は申し訳無さそうに言った。
「あ、いえ、こっちこそ起こしてくれてありがとう…」
部屋に戻って寝直そうかと考えると、それを感じたかの様に少年が話し掛けて来た。
「あのさ…出来たらでいいんだけど、僕と友達に…なってくれないかな?」
少年はおそるおそる、と言った感じだった。
「僕、保健室登校で友達が居ないんだ…だから、」
「いいよ。もちろん!」
「本当!?あっ、僕の名前は…――」
それから少年と色々な話をした。
「僕と友達になってくれてありがとう」
「全然構わないよ」
「お礼と言ったら何だけど…困った時は僕を呼んでね?」
「うん。…あ、そろそろ帰らないと」
時計を見ると結構な時間が経っていた。そろそろ戻って寝ないと。
だが、
「………悪いけど、それは出来ない」
少年の態度が急変した。
「返さないよ、『僕の友達』」
「だ、駄目だよ。私帰らないといけないの」
「駄目なのは僕の方だ」
ぐいっと引っ張られ、私はベッドに押し倒された。
「『僕の友達』がここから居なくなる位なら、死んだ方がマシだ」
「ちょ、ちょっと…!」
私の首に手が回され、少年はぎちぎちと首を絞める。
「大丈夫、僕も死んでるからね」
少年は優しく微笑んだ。
少年の服は真っ白で右前の『死装束』だった。
「さようなら、『僕の友達』。また会おう」
                   【友達の欲しい少年】

実は私の趣味はネットだ。
毎日パソコンを開いてネットをしないと気が済まない程好きだ。
「来ちゃった…」
私はパソコン室の前でそう呟く。探検していたら無意識にパソコンを求めてここに来てしまったようだ。…ここまで来たんだから少しだけやってもいいよね。
扉を開けて誰もいない中へと入る。電気を付け、一番手前のパソコンの電源を付けようと手を伸ばす。
「…えっ」
一瞬パソコンの画面が歪んだ様な…いや、気のせいだ。無視してかちりとスイッチを押したのだが、スイッチを押しても電源が入らない。
「元電が入ってないのかな…」
いつも先生が使っているパソコンに近付いて見てみるが、よく分からない。
ふつり、
部屋の電気が消えた。
「ひっ!」
突然の事に驚いて私は悲鳴を上げた。
しばらく待っても電気がつく気配はない。私はだんだん怖くなってきた。
ヴゥ…
立ち尽くしていると、いきなり聞き慣れたパソコンの起動音が聞こえた。
部屋の一ヶ所だけ、明かりがついていた。パソコンが起動している。
私はさっき点かなかった事を忘れてパソコンに駆け寄った。画面を見ると真っ黒に光っているだけで何も映っていない。
不審に思ってしばらく見つめていると、すぐに画面が切り替わった。
……人の眼球が私を見ていた。
真っ黒な空間に、ぽっかりとその二つの眼球が浮かんでいた。
「きゃあっ!」
私は叫び声を上げ、後退った。
…何で、眼球が?
ぬぅっ、と眼球が動く。
私を、見た。
「ひぃっ!」
私は怖くてその場に尻餅をついてしまった。
ぺた、ぺた、ぺた、
暗闇の中、何かが動いた。
それに合わせて、眼球がパソコンの画面から抜け出てくる。
ぺた、ぺた、ぺた、
眼球は音がするたび私に近付いて来る。
そして、何かが触れた。
「嫌っ!」
咄嗟にそれを振り払うと、眼球はきょろりと動いた。『それ』は何か言いたそうだったが、瞼も口も無いから何も分からなかった。
そして今度は複数の『それ』が私の腕を掴んで引っ張った。抵抗しても離れず、それどころか引きずって動き始めた。
ぺた、ぺた、ぺた、
向かう先は、パソコン。
ズルズルと引きずられ、私は次第にパソコンの画面へと飲み込まれていった。
私は、真っ黒に染まっていった。
                       【箱の中の人】

気が付いたら、プールサイドに立っていた。
「へっ?」
今…夜中だよね?なんで私こんな所に居るんだろう…?
ひたり、ひたり、
「ねえ」
とん、
私は後ろからプールサイドに落とされた。
「あははっ!」
「落ちたー!」
「だっさー!」
プールサイドから誰かの笑い声が聞こえた。
「何す、……っ!?」
いつの間にか私の周りには……人、人、人。
「沈めよ」
「汚い顔を晒すな」
頭を掴まれ、水の中に沈められる。息が出来なくて暴れるが、状況は変わらない。
――…息が…!苦しい…っ!
息が出来ない!苦しい…!
気絶する寸前で水面から頭を持ち上げられた。
――…こんなの……
こんなの、生き殺しだ…。
私の頭は再び沈められた。今度は覚悟が出来ていたので、ある程度は我慢できる。
しかし。
じょきっ、
足の肉が、切られた。
――痛…い…
痛い!
ごぼり、と口から空気の泡がもれる。
血と水に濡れていたのは…豚などを解体するために使う肉切り鋏だった。
じょき、じょき、じょき、
私の皮が、肉が、筋肉が、少しづつ切られる。
そして、
ばちん!
骨が、切られた。
左足が、切断されてしまった。
「……――!」
叫び声は水に吸い込まれていった。
――…痛い…助けて…!
痛い!誰か、助けて!
じょき、じょき、じょき、
ばちん!
右足が切断された。
――…助けて…!
痛い!誰か!

じょき、じょき、じょき、
ばちん!
右腕が切断された。
――…痛いよ…!
誰か…!誰か!

じょき、じょき、じょき、
ばちん!
左腕が切断された。
切断部分の痛さと息が出来ない苦しさとで私は気絶することも出来なかった。
「あははっ!」
私の頭を掴んで居た人が私の顔を水上へと引っ張る。
「げほっ!げほっ!」
私は一瞬だけ痛さを忘れ、必死で呼吸をした。
――苦しい…助けて…。
苦しい。どうして誰もこの状況を止めないのか。
そんな私の思いをよそに誰かが私の胴体に何かを括り付ける。体が一気に重くなった。
「芋虫にはお似合いだな!」
私の体は最早胴体しかなく、まさに芋虫のようだった。
まさか…!
私は急に切られた痛みを思い出した。
「サヨウナラ」
私の頭から手が離れる。
私の体は沈んで、沈んで、底へと横たわった。
――動けない…誰か…!
動けない。私の体は芋虫の様にもぞもぞと動くだけで、その場から動けなかった。
――息が…!
だんだん肺が苦しくなってきて、ごぼりと空気が吐き出された。
苦しい。
――誰か…。
誰か、助けて…。
声にならない声が漏れる。だんだん意識が遠のいていく。
水に揺れて、黒くて長い髪が視界にちらついた。
あれ…?私の髪は…茶髪のセミロングだったはず…。それに私…水着なんて着てたっけ…?
意識が朦朧として考えられない。
――助けて…。
ごぽ、と何処に残っていたのか口から水面へと泡が浮かんでいった。
                     【助けを求める声】

窓を見たら、少女が見えた。
「!?」
その少女は一瞬にして私の視界から消えた。というよりも、窓からは見えなくなった。
その少女は上から下へと消えていった。
それが何を意味するのか、答えは明白だった。
とりあえず、先生達に知らせに行こうと足を踏み出した瞬間、
世界が反転した。
足を出した場所に足を置く空間は無く、足は空をきるのみ。体が前へと傾き、落ちていくのが分かった。
……ここは、屋上だろうか。
逆さまの状態で落ちてしまったというのに、私は疑問も抱かず不思議と冷静だった。
一瞬の時間が妙に間延びして、緩やかに過ぎていく。
落ちていく中、一瞬だが窓の中の教室が見えた。
その教室の中の一つに、『私』が立っていた。
『私』は驚いている。私はあの時こんな変な顔をしていたのかと思うと、少し可笑しくなった。
べしゃり、
私の血と肉がアスファルトの地面にこびり付いた。
                     【落ちてくる少女】


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