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部誌提出作
怪談ループA
「っとと」
うとうとしてて危うく転ぶ所だった。
みんなの部屋に戻ろうと廊下を歩き始める。というか、どうせ部屋に帰ってもみんな寝ちゃってる。今のですっかり眠気が覚めてしまった私は学校を探検する事にした。私は手近にあった美術室に入る。
中へ入ると美術室特有の絵の具の臭いがした。
「なんか怖いなあ」
白い像が何体も置いてあり、訳の分からない抽象的な絵が沢山飾ってある。
その中で描き途中なのであろう真っ赤な絵があった。
「……っと?」
その絵を見ていると何だか奇妙な感覚に襲われた。
ずっと見ていたらまるで吸い込まれてしまいそうな…。
「いやいや、ある訳無い」
ぶんぶんと首を振って否定した。ちょっと怖くなって来たので、戻ろうとする。
だが、
「扉が、無い…」
扉があった場所には真っ赤な壁があり、通れなかった。壁を認識すると共につん、と室内に鉄の臭いも漂い始める。
「血……?」
手を伸ばして指先だけ壁に触れてみる。まだ出来てから間もないような生温さ。まるで血のようだと思ったが、同時に変色する事の無い赤色、絵の具のようだとも思った。
たぷん、
唐突に、体が沈んだ。
「へっ?」
下を見ると足が床にめり込んで居た。
「ええっ!」
いつの間にか床も壁も天井も黒板も真っ赤になっている。
ずぷずぷと体が沈む。
もがけばもがく程沈んでいく。
まるで、底なし沼。
そうして、全身沈みきった時。
みし、と音がして体内に赤色が入ってきた。
「あっ、がっぁ」
息が出来ない。
だが、それよりも赤色の不快感の方が勝っていた。
毛穴、目、耳、口、鼻、全身から赤色が侵入しようとしているのだ。
しかし、私の体は血、、臓物で埋まっている。赤色の入る隙間なんて無い。
だから。
「が…」
血が目、口、鼻、耳から出て行き、臓物は裂けた腹から飛び出し、代わりに赤色が私を満たしていった。
苦しい、苦しい。
だが、同時に赤色の圧迫感が生温く、心地良かった。
私は赤色と一つになっていた。
                       【苦しみの絵】

「……んっ?」
ピアノの音が聞こえた。
明るい曲なのにどこか物悲しい旋律。
「誰だろう…」
合唱部の人とかだろうか。
私はその曲をもう少し聴いていたくて音楽室へと近付いた。
「あなたは、鏡に、捕らわれたー、無限の、回廊、走ってるー」
小さく歌も聞こえてきた。何だか変な歌詞だ。
扉が開け放してあったので物音を立てないようにこっそり中へ入る。
奏者は私と同じ位の年の制服を着た少女だった。
「瞳を、閉じても、現れる、見えない、見える、怪談が」
…どういうテーマの曲なんだろう。節が単調だから童謡?そんな事を考えながら曲を聴いていると曲が終わる。
「あ」
その少女は目を細長い黒い布で覆っていた。布は目を覆い後ろで結ばれている。その事に驚いて私は声を上げてしまった。その声で少女はこっちを見る。
「あら、ごめんなさい。誰か居るなんて気がつかなかったわ」
少女は盗み聴きをされた事に気分を害す風も無く、にこりと笑った。
「あ…いえ、こっちこそ勝手に聴いちゃってごめんなさい」
「いいのよ。音楽は聴いてくれる人が居てこその音楽だもの」
でも、と少女は悲しげに続ける。
「私目が見えないから、親も皆も無理だって言ってピアノを触らせてくれないの」
親の目を盗んで夜中に弾いているんだろう。どうして許してくれないんだろう、彼女はあんなに上手なのに。
「一度こんなに上手なんだからって弾いてみたらどうですか?きっとご両親も許してくれますよ」
「そうかしら…」
「そうですよ!あ、もう一曲聴かせてくれませんか?」
私は少女に元気を出してほしかった。
「いいわよ」
案の定、少女は嬉しそうに笑うとピアノと向き合う。少女は一つだけぽーん、と弾いた後、鍵盤に手を乗せる。
一瞬の沈黙。
指が動く。
それはとても美しい旋律だった。
歌はない。ピアノの音が響くだけ。
演奏に酔いしれていたら、突然ふっと体から力が抜けた。
下を見てみると、私の体が倒れている。私、幽体離脱したんだ…。
相変わらず美しい旋律が響く。
私は不思議と幽体離脱した事なんてどうでもよくなっていた。
曲が終わる。
私は大きく拍手した…が、幽霊なので少女には聞こえないようだ。
「帰っちゃったのかしら…」
物音一つない空間に少女の声だけ響く。
いいえ、私はまだ居ます。とっても素晴らしかったです。もっと聴かせて下さい。そう言いたくても声が出ない。少女には聞こえない。
よく見ると、少女の周りには私と同じような幽霊が何人も居た。その幽霊達も何か言い出そうにしている。
少女はまた寂しそうにピアノを弾き始めた。
ああ、そんな寂しそうな顔をしないで。
私にはただ聴く事しか出来ない。
ただその場に漂って、ただ少女を見ている事しか。
                  【見えない少女の演奏会】

何か思い出せない。何だったっけ?
「…あれ?」
そんな事を考えながら部屋に帰る途中、ある教室の電気が点いているのに気が付いた。
「誰か居るのかな?」
教室を覗いて見たら、制服姿の少女達が何かを囲んでいた。何をしているんだろう。
「誰っ!?」
少女達は私に気がついたらしく、一斉に振り向く。
「す、すいません…」
「先生じゃなかった…」
私が先生でないと分かると安心したように少女達の一人が呟いた。
「あの…」
私は何をしているのか気になって話し掛けてみた。
「何?」
「何、やってるんですか?」
「コックリさんよ」
「コックリさん?」
「そう。あなたもやる?」
「いいんですか?」
「もちろん」
少し悩んだ末に、面白そうだったのでやってみることにした。教室に入り、少女達の輪の中へ入る。教室には電気が点いてなく、蝋燭がゆらゆらと燃えていた。
少女達が囲んでいるのは何か文字の書かれた紙の置かれた机だった。その紙には五十音全てと「はい」、「いいえ」そして鳥居が書かれていた。鳥居の上には十円玉が置いてある。
「皆で十円玉に触れて頂戴」
言われた通りに人差し指を十円玉に触れさせる。
「何があっても絶対に指を離さないでね」
その子以外誰も何も言わない。
「離すと…コックリさんに祟られるから」
先程よりもぴん、と空気が張り詰めた気がする。
「じゃ、始めるわよ」
さっきの子がそう言って私達を見回す。皆頷く。
「霊魂さま霊魂さま、私達の周りにいらっしゃいましたらおいでくださいませ。どうぞこの十円玉に乗り移り、私達と交信して下さいませ」
十円玉が震え始めた。
「ひっ…!」
「慌てないで!これから私達の尋ねることにどうかお答え下さい」
少女がそう言うと、十円玉は振動を止めた。
「はい」の所へ移動した。
「…皆、悩み事を言って良いわ」
それを境にぽつりぽつりと皆の悩み事が話され、コックリさんはそれに答えていった。
「貴方は?」
「え?」
「貴方は悩み事無いの?」
悩み事…。
「何か忘れてる気がするんですけど、それが何か分かりますか?」
コックリさんはそんな曖昧な問いにも答えてくれるようで、十円玉は「はい」の所へ移動した。
途端。
「あ…あ、ああああああっ!!」
全て、思い出した。
溢れ出す惨殺の記憶。
私は何回死んでしまったんだろう。何回殺されたんだろう。
少女達が何か言っていたが、私には聞こえなかった。
叫ぶ。
叫び続ける。
だって叫んでないと自分の殺された痛みと私だった肉塊を思い出して本当に狂ってしまう。
そこで私はやってはいけないことをした。
十円玉から、手を離してしまったのだ。
しばらく叫んでいると、不意に肩を叩かれた。
「おねーさま?」
舌っ足らずな子供の声が教室に響いた。
「おねーさま」
目の前にはガリガリに痩せた小さな少女が居た。
「君は…?」
「おねーさま」
少女は戦争時のようなボロボロの服を着て、頭巾を被っていた。
「助けてください」
少女は私に縋るように服を掴む。私は振り払う事も何か言う事も出来なかった。
「助けてください…お腹が空いたんです…」
それをどう受け取ったのか少女は更にそう呟いた。
「お腹空いたの?」
少女はこくりと頷く。
確か部屋に戻ればお菓子があったはず…。
「ほんと!?」
「うん」
……あれ?今私は口に出して言ったっけ?
「助けて…」
また別の声が聞こえた。そちらを見るとまた戦争時のようなボロボロの服を纏った少年が居た。
「助けて…」
また別の声が聞こえた。
「助けて…」
また別の声が…。
「助けて」
また…。
「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「タスケテ」「タスケテ」「タスケテ」「タスケテ」
気が付くと私は幼い子供達に囲まれていた。
「おねーさま」
「待てないよ」
「お腹空いた」
全ての子供が私を掴む。
そして口を近付け、
食い千切った。
「っ、ぎゃああああぁぁぁっ!」
「美味しい」「美味しい」「おいしい」「おいしい」
子供達は一心不乱に私を貪る。
私の皮も肉も筋肉も血管も血も内臓も脳髄も眼球も骨も。
跡形も無くなるまで、私を千切り裂いて解体して貪り啜った。
                      【コックリさん】

「いち、にぃ、さん…」
とん、とん、と私は階段の数を数えながら降りていく。部屋に帰ってもどうせみんな寝てるから少しだけ探検しているのだ。
「じゅういち、じゅうに…じゅうさん?」
おかしい。階段は十二段だったはず。
「あ……」
まずい。
気がついてしまった。
気がついてはいけないことに気がついてしまった。
まずいまずいまずい。
「『学校の階段が十三段だと気がついてしまうと…』」
死んでしまう。
「もう一回数え直せば…!」
一段多ければ抜かして数えればいいし、十二段だったらそのまま昇ればいい。
「いち、にぃ、さん、しぃ、ご、ろく、…〜っ!」
なな、と言おうとした時、後ろから誰かに首を絞められた。
「…っ!…や、め……!」
酸素が入ってこなくて口をぱくぱくさせるが、言葉にならない。
段々意識が朦朧としてくる。抵抗が少なくなりそれが分かったのか、首を絞めている人物は不意に離れた。
「はあ…っ!はあっ…!」
肺に一気に空気が入ってきて、意識が覚醒する。
「はっ…!はっ…」
私が私の首を絞めた人物を見ようと振り返るよりも早く、その人物は私を後ろへと引っ張った。その時になって気がついたのだが、私の首には輪になった縄が掛けられていた。
私は重力に従って落ちる。
しかし。
「がっ」
がくんと私の体が空中で止まる。
私は縄に全体重を掛けて停止していた。
「………」
私は私が死んだと気がつく前に死んでいたのだ。
                        【十三階段】

廊下を歩いていたら、どすどすと地響きのような音が聞こえて来た。
「何の音だろう…?」
夜中の学校にこんな音を出すのは少しおかしい。だがどこから聞こえてくるのか分からなかったので、特に気にせず私はまた歩き始めた。
「ん?」
地響きが近付いている?
どすんどすんどすんッ!!
振り向くと。
二ノ宮金次郎像が、あった。
ばきっ、ごしゃっ、
避ける隙も無く私は跳ね飛ばされ、潰された。
明らかに二宮金次郎像の過失、前方不注意だった。
                   【歩く二ノ宮金次郎像】



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あきゅろす。
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