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悪戯書き集
平民の回想
時間は戻って。
サネとカズヤ先輩の水面下の攻防の後の話をしよう。
カズヤ先輩が「ばいびー☆」と言って去った後、残されたのは当然僕とサネだった。
「何をしてる。サッサと帰るぞ」
僕はその言葉にハッとして、鞄を掴んでサネを追い掛けた。
「あ、のさ……」
「なんだ?」
「えェと……何て言ったらいいのか分からないんだけど、さ」
急展開に未だ頭が追い付いてない僕を、サネは急かすことなく黙って待っていてくれた。
「僕は……どうしたらいいんだろう」
考えた末に出た言葉がこれだった。手伝いたい、と言うのは何か癪に触るし、僕には全く関係ないと自分で切り捨てるのも嫌だったのだ。かと言って、サネに「お前には関係ない事だ」とか言われるのも腹が立つしで、本当にどうしていいのか分からないのである。
僕の混乱を分かっているのかいないのか、サネはフッと笑った。
「お前はお前のままでいいと思うぜ」
「…………」
「聞くが、多々角は俺や一さんに何も言われず利用されて掌の上で踊らされてもいいのか?」
「……それは、嫌だな」
自然に言葉が出てきた。この二人の間に入れば必然的に二人に良い様に言われ、利用される。僕に利用される意思が無くても。サネが言いたいのはきっとそういうことだ。
「ま、明日を乗り越えれば解決するだろう、きっとな。多々角は安心して寝ていろ」
くしゃくしゃとサネは僕の髪を混ぜてボサボサにする。なんか、気持ちが緩んでしまった。
「ハハ……」
「と言うことで、ちょっとお前を利用させて貰うぜ」
「ッ、え」
グイッと。襟を引っ張られて僕の体が傾いて。
僕とサネは唇を交合わせていた。
「……っは。こんなモンか」
永遠にも思えるような一瞬が過ぎ(過剰表現に思えるが本当にそう思った)、サネが僕から離れる。
「…………」
「ン?何を固まっている?」
僕は、放心していた。柔らかい唇。仄かな甘い味。香る服に残った香水。淡い初恋。甘酸っぱい青春。僕のファーストキス。
「男同士がそんなに嫌だったのか?そんなにショック受けるなよ、人生突然何があるか分からんモンだぜ?」
「ぼ、僕は……」
「兄ちゃん」
僕は我に返る。聞き慣れた弟の声。
「タマキ!」
「兄ちゃん、落ち着いて」
弟のタマキが僕の後ろに立っていた。僕が振り返るよりも早く、ふわりと優しく視界を塞がれる。タマキが作った暗闇。僕は深呼吸をした。訳が分からなくなっていた心を静める。
「……うん、もう、大丈夫」
「良かった」
手が離れ、タマキは僕とサネの間に割り込むように入る。そのあまりにも自然な動作にサネは顔を歪ませた。
「……一応聞くが、貴様は誰だ?」
「弟の多々角環。赤空さん、僕の兄ちゃんを混乱させるようなこと、しないで」
「ふゥん?何か知っているという口ぶりだな」
「僕は『心を読む』よ。兄ちゃんには隠し事出来るかもしれないけど、僕には大声で言っている位うるさい」
「そうか」
サネはニヤッと笑った。僕はサネの思惑に気が付いて声をあげる。
「俺は『常識を覆す』ぜ」
「タマキ!読むなッ!」
ぐら、とタマキの体が後ろによろめく。慌てて支えるが、タマキに制された。
「……赤空さんは、優しいね」
「!?」
タマキはサネに向かって微笑んでいた。上部ではなく本心からで、だ!タマキは洗脳でもされてしまったのか!?
「洗脳とかじゃないよ、大丈夫」
タマキが心を読んだんだろう、サネを睨むように見ながら僕を安心させるように撫でる。僕がタマキよりも小さいとはいえ、一応兄なんだけど……。
「赤空さんの考えてることは悪いことじゃない。でも……兄ちゃんに謝って」
「タマキ……」
「謝ってよ」
タマキがキツく言うとサネは真顔になり、アッサリと頭を下げた。タマキと、僕にだ。
「ああ……悪かった。多々角、悪かったな。突然キスなんかして。次はちゃんと予告するようにする」
「いや、予告されるのも嫌なんだけど……」
そんな感じで、僕達はそこそこ円満に事態を解決させてから別れた。
「赤空さんって不思議な人だね」
「そうかな?」
「僕が心を読んでるのに、それを逆に読んでいるような……こんなのはじめてだよ」
「へー……ただいまー」
僕はタマキと話しながら玄関の扉を開けた。
そこには。
「おかえり、兄ちゃん」
たった今まで隣で話していた筈のタマキが家にいた。
「え……?」
さっきまでタマキがいた筈の場所。僕の隣には、誰もいない。そんな人間なんて始めっからいなかったかのように!
「兄ちゃん?どうしたの……?」
次の日、僕は学校を休んだ。

2012/05/14

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