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悪戯書き集
平常な神経
「カズヤ先輩」
僕はサネとの会話の後、カズヤ先輩の元へ向かった。
「ああ、おつかれ。どうだった?」
カズヤ先輩は僕に気が付くと読んでいた本を閉じ、いつものように微笑んで迎えてくれた。
「やっぱり先輩が正しかったようです」
「そっか、良かった」
先輩は手招きして僕を向かいの椅子に座らせた。
「改めて聞いてもいいかな?」
「はい、何でしょう?」
「君は僕に協力してくれるのかい?」
「ええ。カズヤ先輩の勢力につきますよ」
僕が勢力にという言葉を使うとハハ、とカズヤ先輩は笑った。と、同時に口元が歪む。
「勢力、なんてコトバ使うんじゃあねーよ。まるで戦争だろーが」
「違うんですか?」
カズヤ先輩は何か嫌な未来を計算してしまったんだろうか。キャラを替えてきた。僕はいつもの通り気にせず(そのことについて尋ねたって答えてくれない)、聞き返す。
「核くんとの関係は複雑なものだよ。いがみあうだとか、仲良くするだとか、そういう一言で言い表せる様なものじゃあないのさ」
「うーん……?」
僕は考える。サネをあの様に奇襲できたのはカズヤ先輩が知恵を貸してくれたお陰だ。いや、そもそもどうして先輩は僕にサネの倒し方を教えてくれたのだったか。
「『計算する』のと『覆す』。相性が悪い、と言ったよね」
「ええ。でもそれは一対一の場合でしょう?」
「そうだね。君が居れば、間に入れば、どちらかに協力すれば、その泥沼は起こらない。いや、起こらないというよりリセットされると言った方が正しいか」
君が居れば、なんて随分都合の良いことを言う。僕でなくても、介入出来れば他の誰だって良いこと位頭の回転が早くない僕にも理解できている。そう思う程の不信感が僕には積もっていたが、カズヤ先輩に協力する程度にはまだ盲目的だった。
「その泥沼を回避さえ出来れば、対立しても友達になってもどっちでもいいんだ」
つまり、手段でしか無いということか。
「核くんは性格的に合わないぜ、とか言いそうだけどね」
先輩はサネの物真似をして、苦笑いする。「言いそう」だなんて不確かな言い方をするカズヤ先輩は初めてだ。僕は少し悲しくなった。
「先輩……」
「残念ながら、弱くなってしまったよ」
今度は僕の言葉を予測していたように答える先輩。
「核くんに関わると能力が狂ってしまう」
カズヤ先輩は笑った。まるで、本心の様な笑顔だった。
「核くんと話せば、好かれる性格が計算できない。核くんと戦えば、勝てる未来が計算できない。あァ、弱くなったなァ」
カズヤ先輩は笑う。笑う。笑う。
「自分の能力に頼らず、自分で考えなきゃいけないじゃないか。大変だ、大変だ」
カズヤ先輩は嬉しそうだ。嬉しそうに。嬉しそうに。笑う。
「君も、そう思うだろう?」
カズヤ先輩は僕の方を見た。僕はちょっと微笑んだ。
「ところで、まどちゃんの真似をしているようだけれど、君は誰だい?」


2012/05/12

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