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悪戯書き集
平和な戦闘
「自分、一一哉と戦ってくれないかな」
「何だって?」
放課後、予告なく表れたカズヤ先輩は教室内のサネを見付けるな否や近付いてきてそう言った。その唐突な言葉に、僕も理解が追い付かず怪訝な顔をしてしまう。先輩の突飛な言動に慣れている筈の僕でさえそうなのだから、サネはさらに理解できなかったのであろう、眉間にシワを寄せて(理解できないのと同時にとても嫌そうな顔だった)聞き返していたが、先輩はそれも予想の内だとでも言う風に悪戯っぽくウインクしてみせた。
「核くんの能力が見てみたいのさ」
「……フン」
サネは鼻をならし、ギラリと犬歯を見せて笑った。それはとても嫌々ながらも無理矢理笑っている、という感じがした。この二週間で僕も随分サネのことが理解できた気がする。
「俺も丁度一さんと戦ってみたかった……なんてことは思ってなかったぜ。いや、むしろお前とは絶対に戦いたくない、そう思っていた」
「……へえ?予想外だな」
カズヤ先輩の笑顔が固まった。まるで、本当に予想外だったような顔だ。まあ、計算する能力を持つカズヤ先輩のことだから、これもハッタリ芝居なんだろうけれど。
「俺の『常識を覆す』能力とお前の『計算する』能力。言いたくは無いが、相性が悪い」
「計算する能力、知っているんだね」
「『普通、初対面の人は知らない』からな」
「……核くんは喜んで戦ってくれると思ったんだけどな」
「だからこそ、俺はお前とは戦いたくはない。一さんを捻り潰したくて飛び出したいのと、今戦わずに後で潰したいっていう気分なんだぜ?俺が板挟みで潰れちまいそうだ」
サネにもこんな冗談が言えたのか。あまり面白くはないけど。
「だろ?多々角」
「は、えッ?」
唐突に話を振られた僕は慌てた。
「何だよ、聞いてなかったのか?」
「ち、違う。……僕にはカズヤ先輩の意図もサネの意図も理解しかねるよ」
僕は思った通りのことを言った。僕の能力は上下左右を決める程度で、彼等のような心を読むだとか、水面下で戦えるようなものではない。表面上のやりとりを見るだけでは僕には彼等の真意なんて分かる訳がない。
まるで――計算してそれを覆してその結果をまた計算するような、やりとりなのだから。
だが、カズヤ先輩は心を読んだかのように笑った。否、心を計算したのだ。
「まどちゃんが考えている事で正しいよ。『計算して』『それを覆して』『また計算する』。泥沼なんだ」
「俺と一さん、ならな」
サネが思わせ振りに僕を見る。
「なッ何だよ」
「帰るぞ」
「え?」
「俺は帰るんだ。一さんと戦うつもりはないし、帰ってさっさとテレビを観たい」
サネは本当に帰るつもりなようで、鞄を持つと教室から出ていこうとしてしまった。
「ちょ……ッと、待て!」
「聞きたいことがあるなら歩きながらにしてくれないか?効率ってヤツがあるだろ?」
ジロリとサネに睨まれた。それなら今までのカズヤ先輩との会話だって、効率とやらを重視すれば良かったのに。
「何の番組が観たいんだい?」
カズヤ先輩が横から口出しする。聞きたいのはそこじゃない!
「『魔女っ娘☆めぐめぐ』だ」
何でそういう時だけ律儀に答えるんだ!しかもその顔で、見た目で、性格で、能力で、子供向けアニメを見るのか!
「能力は関係無いけどね」
閑話休題。
「なら、サネくん」
「それに、まどちゃん」
「また明日、会おう」
「それじゃあね」
「ばいびー☆」
カズヤ先輩はサネを追い越して帰って行った。
それにしても。
死語である。

2012/03/18

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