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悪戯書き集
魔女(没版、後編)
教室に入るとルカが待っていた。
「ゆーくん、おはよー!」
昨日と変わらない笑顔。
「ああ、おはよう」
俺が返すとルカはすまなそうな顔になって言った。
「あのね、昨日はごめんなの。無理矢理相棒にさせちゃって嫌だった?」
「嫌だったよ」
ルカはショックを受けたようだったが、俺は構わず続けた。
「嫌だったさ、その時はな。だって何の説明も無しにするからじゃないか。でも、今はいいと思ってる。しぶしぶだけどな」
裕さんが言ってたようにルカは自分の相棒が俺しか居ないと思ったんだろう。
「みゃっ!?ほんと?ほんとにいーの?相棒になってくれるの?」
「ああ、いーよ」
それに、冷静に考えてみると俺は非日常を求めてたじゃないか。
「みゃはーっ!!やったー!」
ルカは子供みたいに飛び跳ねて叫んだ。周りに誰も居なくて良かった。
不意にぱきん、と何かが割れるような音がしたと同時に部屋が異様に暗くなる。
「ルカ」
俺は黙って説明を求める。ルカも落ち着きを取り戻していた。
「ここはこの世界であってこの世界でない世界なの。詳しい説明は省くけど…んと、魔物が出る世界って事だよ。普段は世界が違うんだけど、魔女とか魔物を感じとれる人が近くにいると世界が反転して私たちがこっちの世界に移動しちゃうの。普通の人には見れないけど」
「つまりゲームで言うエンカウントってやつだな」
「えん、か…?みゃはっ、よくわからないけど魔法を使う時もこっちに来るんだよ」
「なるほど」
ガルルルル……。
そんな端から見れば胡散臭い会話をしていると獣のような唸り声が聞こえた。
「…もしかして、魔物?」
「そーだよ。一緒に戦ってくれるよね?」
不安げに発せられた問いに俺は自信満々に言う。ルカが驚き発言をするまでは。
「勿論。俺はお前の相棒じゃないか」
ルカはみゃは、と笑っただけで何も言わなかった。
「じゃあ何か出してくれ」
「みゃ?ゆーくん何言ってるの?」
きょとんとした顔でルカは聞きかえす。RPGとか知らないのか?
「剣とか何か出してくれよ。俺も魔法とか使えるようになってんのかなぁ?それとも滅茶苦茶強くなってたりして!」
「みゃははっ、そんなの無いに決まってるでしょ。それに、ゆーくんはゆーくんのままなんだよ」
驚き発言。
「つまり、俺は、何にも…変わってないのか?」
「そーだってば。あ、魔物が来たみたい。みゃはっ!頑張ろうね!」
ガルルルル…とさっきよりも近くから唸り声が聞こえる。
「って、俺弱いまんま!?剣も魔法もなし!?ルカは死ねって言ってるのか!?そうなのか!?」
俺はキレてルカに詰め寄る。ルカはあろうことか困惑していた。
「なんで?」
「何で、って…!」
「…もしかして、ゆーくん戦えないの?」
「何『戦う事が普通です』的な雰囲気出して行ってんの!?違うよ、一般人は戦わないよ!?」
ルカは有り得ない事を聞いたかのように口をぱっくり開けていた。俺はその間キャラを戻すように努める。
「………知らなかったの」
ルカは突然ガタブル震え始めた。
「どどどうしよう。スッゴくゆーくん頼ってたんだよ!」
知るか。
「そうも言ってられないみたいだ」
俺達はゆっくりと振り返る。教室の後ろには2メートル以上ある狼が居た。
「ル、ルカ!!魔法唱えてくれ!」
「みゃ、うん!」
ルカは杖を出し魔法を唱え始める。俺は武器になりそうな物を探すがほうき位しかない。魔物は今の所唸っているだけで飛びかかってくる気配はない。
「火竜(サラマンダー)の怒り、朱雀の羽、火の炎。天を飛び地を跳び敵を飛べ【飛翔炎(ファライア)】」
呪文を唱え終わり、杖を相手に向ける。しかし、何も起こらなかった。
「……みゃは、失敗しちゃった」
「ふざけんなー!」
実は魔法は苦手なの、とこんな所で告白するルカ。魔法はって魔法以外に魔女に何かあるのか!
「みゃ…みゃっ!」
ガルルルル!
まずい。魔物がこっちに威嚇してる。今にも襲いかかって来そうだ。絶対絶命。
「みゃはあ!」
ルカは俺の腕を掴み逃げようとした。
「おい、急に動いたら…!」
魔物がこっちに跳んできた。…死ぬ、そう覚悟を決めざるをえなかった。
「何やってんだ、コラァ!!」
そんな声が聞こえた。廊下から声の主と思われる人が入って来て、魔物に飛び蹴りを喰らわせる。それだけで魔物は消滅した。そして、空間も元に戻る。
「た、助かった…?」
それの言葉は俺が発したのか、ルカが発したのかは分からない。その言葉を聞き魔物を倒した人が振り返る。
「うはははは!スゲーいーよ。ああ、良さ過ぎじゃんか!何だ今の!」
よく見ると担任の葉菊先生だった。…ファンタジー側の人間だったのか。
「ありがとう、ございます」
「いーよいーよ。この借りは三百倍にして返せ」
この理不尽具合は葉菊先生らしい。まだ会って二日目だが。
「みゃは、葉菊せんせーって魔女の関係者なの?」
「魔女?お前ら、魔女なのか?」
「俺は相棒ですが」
「へえ、やっぱり良さ過ぎじゃんか。なあ?」
葉菊先生は何故か俺にくっついてきた。
「オイ、何とか答えろよ。魔女の相棒!」
頬をぷにぷにされた。逆に答えづらい。ルカは葉菊先生をじっと見ていた。
「……ぷにぷにいーな」
「それか!?言うことそれか!?」
「……答えろっつってんだろ」
今度は頬をぐりぐりされた。
「…すいません。良さ過ぎって何がいいんですか」
「そんなの決まってるだろ。魔女と魔女の相棒がだ!面白すぎるじゃん」
やっと葉菊先生から解放された。すると、ルカが近付き耳打ちをする。
「ゆーくん、葉菊せんせーはきっと魔物だよ!」
「何失礼なこと言ってんだ。私は魔物なんかでも魔女の関係者でもない。最強で最悪で最良で最大で最終で最低で最高に格好いい最初で最後の教師だ」
ルカを見ると俺と同じような事を考えているのが分かった。ルカは知らないが、多分この人こそが裕さんの言っていた最強反面教師だ。俺達はダッシュで教室から逃げる。
「逃げんな!」
葉菊先生が追いかけてくる。逃げる途中哀川参津とすれ違った。
「みゃはっ!みゃはっ!大変だよう!」
ルカにそう言われて振り返ると、哀川参津は葉菊先生の跳び蹴りを喰らって倒れていた。
哀川参津、ご愁傷様だ…。
「みゃはあ!」
ルカが突然止まった。俺は壁にぶつかった。
「なっ!マジか!?」
目の前に壁があった。つまり行き止まり。
「私から逃げようったってそうはいかないんだからな」
そう言った葉菊先生はニヤリと猫(と言うよりライオン)のような笑みを浮かべた。
俺達は青ざめた。
「……はは」

▲▽▲

俺達の前に道は無い。というかコンクリの壁がある。

俺達の後ろに道は出来ていた。葉菊先生が消したが。

そして俺達の横には…

異世界が確かに存在していた。

2011/07/30

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