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悪戯書き集
魔女(没版、前編)
『サンタクロースは全然信じてなかったが、宇宙人未来人超能力者は結構信じていた』という内容が冒頭にある本を読んだ。
感想は「面白かったが、有り得ない」。まあ、主人公もそう思っただろうが。俺はそんな世界になったらどんなにいいかと今まで何度思ってきた事か。つまらない日常がどれほどつまらないか。なら妙な非日常の方がよっぽどいい。だから全然喜んでない主人公が不思議で仕方がなかった。その主人公と入れ替わりたいとさえ思ったよ。
その時の俺は後々になって、その主人公と同じ気持ちを味わうなんて思いもしなかった。

▲▽▲

今日、俺は釣木学園にいる。今日から高一だ。
教室に入り席に着く。ドキドキしながらも前の人に話しかける。
「…や…やあ。初めまして。俺は崩野恭って言うんだ。近くの席だからヨロシクな」
振り返った人はピンクの髪(!)をツインテールにした小柄の少女だった。肌は白く、恋愛に疎い俺から見ても美少女だということがわかる。
「ほーの君?よろしくっ!私はフィッツ・マジョルカだよ。フィッツが名字でマジョルカが名前。ルカでいいよ!みゃはは!」
「恭でいいよ」
そう答えながら、変わった子だと思った。外国に行けばみんなそんな物なのか。
「みゃは!ゆーくんだね。Enchante.」
「あ、あんしゃんて?何語?」
「フランス語でよろしくって意味なのだ」
ルカはまたみゃはは、と笑う。
「フランス人なのか?」
「んーん、違うよ。中学生の時に習ったのー」
ルカは一体どこの生まれなんだ。
「はい、こんにちは〜」
会話は先生が入って来た事によって中断された。
「本当はこんな地味な入り方したく無かったんだけど、初めて会うから優しくすることにした。と言うことで、1Bの担任になった赤空葉菊だ!現国を担当しているぞ。ちなみに私は子供の頃は現国が嫌いだった。でも私の話を聞かない奴はもっと嫌いだ」
なら何で現国教師になったんだ。そう心の中でツッコミを入れてしまう。
To誰かへ。俺の担任は黒髪に赤いメッシュを入れていて、凄いムチャクチャをやりそうな教師でした。
「じゃ、みんなも私に質問なんか無いだろうし、早速自己紹介に行くか」
聞きたい事、凄く沢山あるんですけど、なんて言えない。と、ガタリと立つ音がし、無神経な声が響きわたる。
「先生ー、先生は彼氏いるんですか?」
中二か、お前は!俺は名も知らない男にツッコむ。
「んー?」
先生はニッコリと笑って、つかつかとその男の前に行く。そして、足をすっと上げ。
「どっかーん!」
先生は足で机を割った!有り得ない!!
「えーと…哀川参津!中二並みの質問をするな!でも答えてやる!いない!」
そりゃそんな事してれば彼氏なんて出来ないだろうさ…。先生は教卓の前に戻り、何事も無かったかのように自己紹介を開始させた。哀川参津、ご愁傷様だ…。
「じゃ自己紹介。出席番号一番の人から」
ガタッと立ったのはまた哀川参津だった。本当に可哀想だ。
「えーっと、さっき先生に机を割られた哀川参津です。中二じゃなく、ちゃんと高一なんで話しかけて下さい。友達募集中!シクヨロ!」
哀川参津はめげずに明るく自己紹介をした。そんな事をしなくてもさっきの事で充分印象に残ったと思うけどな。シクヨロ、なんて言わなくても。
「みゃっ…みゃはは」
かすかにそんな声が聞こえた。ルカが笑っていた。
ルカまでの人の自己紹介は飛ばしておく。そんなの聞いていても面白く無いだろうし、意味が無い。
そして、ルカの番。椅子から立ち上がる。予想以上に小さい。自己紹介も予想以上だった。
「みゃはは!フィッツ・マジョルカです!皆さん気軽にルカって呼んで下さいっ!あ、将来の夢は魔女です!よろしく!」
ああ、この人は冗談を言っているのか。多分担任以外は全員そう思っただろう。だから、みんな何も触れずに拍手した。先生は爆笑したが。
「崩野恭です。将来の夢は魔女の相棒、なんてのは嘘で普通に公務員狙ってます。ヨロシク」
俺はそう一息で言い、座る。ルカの後で頑張ったな的な視線が俺に集中した。ルカはみゃはみゃは笑っていた。
思えばこれが運のツキ。

▲▽▲

「ねー!ゆーくん!ゆーくんは相棒になりたいのっ!?」
登校一日目が終わって聞かれた言葉はこれだ。
「なりたくない。ルカは魔女になりたいのか?」
「なりたいっ!」
ルカは本当に魔女になりたいらしい。
「ゆーくん、相棒になりたいんだよねぇ…うーん…」
だからなりたくないって。何を悩んでいるのか。
「ゆーくんの相棒としてのしゅーしょく口、何処がいいかな…」
どうやら魔女の相棒として働ける場所を考えているらしい。まだ高校生だぞ?
「だから、さっきのは嘘だってば」
「分かった!私の相棒にしちゃえばいいのか!みゃははー!すっきり解決!」
すっきり解決してない。俺はルカは人の話を聞かないタイプだということが分かった。
教室には異様に暗く、もう誰も居ない。
「親指、出してちょー!」
「いや、ちょっと…」
強引に親指を出させられ、ぺたぺたと赤いインク(?)を塗られる。そして、何処からか出した紙にぺたりと押された。
俺はここまでされてはっと気がつく。これって、拇印!?
ルカの持っている紙を奪い取り、内容を読む。
「これ、何語?」
「魔文字なのだ。これで魔法陣とかを書くのだよ。みゃはっ」
「なんて書いてある?」
「『下記のものはフィッツ・マジョルカの相棒として契約する』」
な、何ぃーーー!?なりたいなんて一言も言ってないのに何だっていうんだ!
「これで、仕上げだ。みゃはは」
ルカはまた何処からか出した50センチ位の杖を俺の頭に刺した!
父さん…母さん…訳が分からないけど俺の人生、ここで終わりのようです…。
「空と天の光、海と地の闇、頭脳と賢さの知、努力と強さの力、ここにフィッツ・マジョルカと崩野恭の協争関係を結ぶ事を誓う【契糸(コンスレード)】」
ふっと何かが抜ける感じがした。下を見ると俺とルカを中心に大きな魔法陣が書いてあった。もう非現実過ぎて何がなんだか分からない…。
「はい、終わりなのだ!みゃはっ!宜しくねぃ、相棒」
ルカの声に意識が浮上する。見渡すと、まだ普通に明るく、まばらだが人がいた。
「夢……?」
「夢なんかじゃないよ。崩野恭はフィッツ・マジョルカの相棒だ」
ルカを見ると、今日一日見た笑顔のどれにも当てはまらない笑顔をしていた。
「……」
俺は何故だか怖くなり、ふいっと視線を逸らす。さっきのルカとは違う気がした。
「みゃは?どうしたの、ゆーくん?」
ルカは元のルカに戻っていた。気のせいか?
ぱきり、と音がして、また人が居なくなっている。
「みゃはあ!ま、魔物なんだよっ!」
魔女と相棒が協力して闘うの、とルカは少し怯えたようにいった。
「……っ。まっぴら御免だっ!」
教室から飛び出す。俺は一般人、俺には関係ない!そのまま全速力で家に帰った。少しでも早く現実に戻りたかった。これが現実なんて認められなかった。
家に飛び込むと、安心した。はあはあと息が荒い。
「あら、どうしたのよ?」
母さんが顔を出す。
「な、何でもないよ…」
言えるわけがない。
そのまま俺は部屋に行く。今ならあの主人公の気持ちが分かる。勘弁してくれって感じだ。
次の日、まだ一日しか学校へ行っていないのに行くのが憂鬱になった。それでも目はぱっちりと覚めるもので、俺は五時半に起きてしまった。電車に乗り、通学路をのろのろと歩く。
「どうしたんだい?この先絶望的、非現実へまっしぐらって顔をしているよ」
そう声を掛けられ、振り返ると釣木学園の制服を着た青年がいた。
「昨日、何かしら驚くべきような事が起こったんだろう?俺はその出来事については知らないけど、君は俺よりも若いんだ、二年分君よりも何かを知っている。俺の経験に比べたら君の驚きなんてきっとちゃっちく感じるはずだ」
この人は俺を励まそうとしてくれているらしい。
「最強反面教師だって人間詐称のロボットだって逆吹嘘だってタダ者じゃないクラゲだって知っている。全て釣木学園に居て、学園に入ってから知った人達だ」
そんな人達が学園に居るのか!?ファンタジーじゃん!
「俺は…自称魔女に会いました。俺はその相棒にされちゃって…」
この人なら信じてくれるかもしれない。
「魔女。魔女はまだ会った事はないな…。いいじゃないか。滅多にない体験だ。替わってみたいな」
この人は俺が主人公に持った憧れとは違う感情を持っているのか。ちゃんと現実のものとして受け入れ、なおかつ肯定している。
「でもまだ会って一日ですよ?魔女というのはともかくおかしいでしょう。それに、俺は相棒なのに逃げ出しました」
「俺もね、出会ったその日に相棒にしてしまった人がいるよ。正確にいうと助手だけど。その人はどうしようもなく助手に向いていなくて、他の人の方がよっぽど向いているのに、でも俺の助手なんだ。その人以外考えられないって位」
俺は矛盾してるじゃないかと思ったが、彼は続けた。
「矛盾してるだろう?けれども、その人を見た瞬間電撃が走ったかのように分かったんだよ。一目惚れみたいな感じかな。君と君の魔女の関係もそういうものじゃあ無いのかな」
自分が気がついて居なかっただけでそうなのかもしれない。席についた時、俺は隣の人に話しかけることも出来た。でもそうせずルカに話しかけた。たまたまといえばたまたまだが。
「……そうかもしれません」
「ま、別に相棒をやれと言っている訳じゃない。本当に嫌なら拒否すればいい。後、逃げ出したという話だけど構わないと思うよ」
彼は何だか妙に悟った顔だった。
「君は相棒として未熟だっただけだ。なったその瞬間から相棒としての役目を果たせなんて無茶過ぎる」
そうこうしているうちに校門まで来てしまった。
「もうついたのか。俺の名前は黒塚裕。ま、覚えなくてもいいよ」
「お、俺は崩野恭です」
「恭君だね。覚えておくよ。じゃあね」
彼、黒塚さんはそう言って去って行った。

2011/07/30

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