悪戯書き集 鏡、真逆 未送信メールが一杯になったから書きかけを消化しよう計画。 斉藤勇太(さいとうゆうた) 平凡平常平均普通一般人 僕の名前は斉藤勇太。普通の人間だ。 普通じゃないやつがよく「極々普通の一般人」とか言ってるけど、僕はまさに事実。本当にただの人。 確かに小さい頃はスーパーヒーローになれるんだとか異世界から来た女の子に「あなたは勇者です」とか言われるかもしれないと思っていた。でもこの年だ、それがありえないって分からない年齢じゃない。 例えばテロを救う主人公が居たとする。すると僕は主人公が救えなかった犠牲者その1だ。 がっかりはしていたけど、同時にこの世界に主人公的存在もいないのだと安堵していた。 しかし。 山ほど居た。 僕が入学した釣木学園には山ほど居た。 僕以外全員そうなんじゃないかって位居た。 ていうか、普通じゃないのが多すぎて普通に見える。それ位かなりの異常が沢山居た。 教師を抜いて例を挙げると、科学部の正義の味方達とかオカルト研究会の勇者と魔王とか新聞委員会の忍者達とか図書委員会の異世界進出とか。 明らかにおかしいよね。 教師を抜いたのは教師は全員異常だから。最強とか本名不明とか赤鬼とか魔術師とか。 みんな気が付いてないと思ってるみたいだけど、一般人は気が付いてる。一般人は雑草と同じでありえない人達の視界に入らない、だから逆に隠し事が良く見えてしまう。と言っても、この学園に一般人は僕しか居ないんだけど。 そんな訳で学園唯一の一般人の僕は、今日も今日とて平凡で平常で平均的な普通の日常を送る。 背の高い眼鏡の男が近付いてきた。 「……?」 「僕の名前は池崎藤夏」 その男は唐突に名乗る。 「来て」 「…は?」 「あなたの名前は斉藤勇太」 「…そうだけど」 「君の知らない別の世界がある」 いきなり池崎はそう言った。話が噛み合わない気がする。 「斉藤勇太、行く気はないか」 池崎は僕が待ち望んでいた事を無表情で何てことの無い風に言った。 「………行く」 「説明は」 「行ってからでいいよ」 説得の言葉なんて必要ない。そんなの小説だけで充分だ。ありえない事だとしても、釣木学園でなら本当だと信じられる気がする。 「じゃあ」 池崎が僕に手を伸ばす。が、僕はそれを止めて尋ねる。 「どうして僕なんだ?」 ありきたりでもこれだけは聞きたかった。 「斉藤勇太がこの学園の中で一番平凡で一生脇役の一般人だったから」 それに何か言う前に僕の意識は暗闇に呑まれた。 ぱちり、と目を開けると目の前には池崎の顔があった。 「おはよー」 池崎はにへらと笑う。先程までの無表情はどこへやらだ。 続かない。 この後は斉藤勇太が世界の中心になって結局平凡に戻る話。 2011/07/30 [*前へ][次へ#] |