悪戯書き集 平均の選択 先輩の能力は「計算すること」だ。全ての物事を計算出来る。相手の能力も性格も攻撃も避け方も、そして相手の思考さえも計算出来てしまう能力を持っている。 「まどちゃんが手伝ってくれたお陰で助かったよ」 先輩が言うところによると、この口調もあだ名も笑顔も仕草も感謝の言葉も全て計算らしい。それに私が好感を持つのも謙遜するのも照れてしまうのも。 「い、いえ……私が手伝うことなんてほとんどありませんでしたよ」 能力を知った大抵の人達は先輩の全てが計算だったと知り、失望して嫌いになる。そんなヘマを先輩はしないけど。しかし、私はそんな先輩が嫌いじゃない。 何故か。それは。 「あーそうだよ、俺が先にほとんど片付けちまったのさ」 突然先輩の目つきが悪くなり、不良のような口調になる。 「核なんつー転校生なんて放っといて俺ンとこに来りゃ良かったのによォー」 イヒヒ、と先輩は柄悪く笑った。 「それは駄目ですよ、『転校生』ですから」 「さっすが転校生ってヤツだなァー」 賢く哀れな先輩は計算によって未来を知ってしまった。この行動は最早止めることの出来ない計算式を少しでも狂わせようとする先輩の足掻きだ。 目を瞑って軽く微笑んだ先輩は椅子の上に足を乗せ、体育座りの格好になった。 「こういう時……考え無しに行動してみたいと思ってしまうね」 普通の人間でさえ何か計算や思惑の元に行動するのだ、能力を持つ先輩は日常とまで言える程計算を常時しているのだろう。自分では何も考えないことが出来ない位に。 僕は黙って微笑んだ。 「……あ、まどちゃん次移動教室じゃなかった?」 「そ、そうでしたッ!」 僕が慌てて立ち上がるのを先輩は落ち着いて眺めていた。そして僕が部屋を出ようとした時、独り言のように小さく呟いた。 「放課後、待ってるよ」 2011/05/31 [*前へ][次へ#] |