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悪戯書き集
最適な距離
早いことにサネが転校して来てから二週間が経った。
意外な事に、彼はクラスの出来事(話し合いや掃除など)に積極的で、クラスの皆とも結構仲良くしていた。お弁当は相変わらず僕と一緒に食べていたけど。
「多々角」
「何だい?」
「一つ聞くんだが、お前には俺以外の友達がいないのか?」
僕は黙って机の下でサネの足を蹴った。
「オイオイ、そんなに怒ることないだろ。悪かったよ」
僕はサンドイッチを口に入れながら彼の足をつついて先を促す。この二週間で彼との距離感が何となく分かって来た気がする。
「普通昼飯は友達と食べるもんだろ?だが、多々角が俺以外と昼飯を食べる様子がない……決まりじゃあないか」
「君の口から『普通』なんて言葉を聞くなんて驚いた」
僕は口では冷静にそう言いつつも、両足でサネの足を挟んで攻撃のラッシュを仕掛けていた。それぐらいムカついたってことだ。
「僕にだって友達ぐらい……」
「まどちゃん」
僕の言葉に被さる聞き慣れた声。噂をすれば、である。声の主は教室の扉の近くに立っていた。
「カズヤ先輩!」
僕が勢い良く立ち上がると先輩はにっこり笑って僕達の机の方に来た。
「久し振りだね。最近来てくれないから寂しくて来ちゃったよ」
「え……ッ!ご、ごめんなさいッ!色々あって……」
慌てて頭を下げると先輩は小さく笑って頭を撫でてくれた。私はすぐに頭を上げる。
「謝らなくていいよ。色々ってもしかしてこの人のこと?」
先輩の視線の先にはサネがいた。そのサネは何故か先輩のことを睨んでいた。
「……多々角」
名前を呼ばれるだけでサネの意図が分かるなんて僕も二週間で成長したと思う。
「この人は僕の先輩の一一哉先輩、素晴らしい方だよ。で、こっちは転校生の赤空核です」
紹介した後先輩を見れば「照れるな」なんてはにかんでいた。サネは睨んだまんま。そんな彼に先輩は優しく話し掛けた。
「核くんって呼んでも良いかな?」
「いいですよ。俺も一さんって呼ばせてもらいますが、構いませんね?」
「一哉で構わないよ」
「いえ、一さんで充分です」
なんだか変な空気になってきた。いや、サネが変な空気を出しているだけで、先輩はいつもと変わってはいない。
「そうだ、まどちゃんに用事があるんだった」
ぽん、と先輩はその空気を変えるかのように両手を合わせた。
「え?用事?」
「そう、用事。ついてきてくれる?」
やんわりと、しかし有無を言わせない調子で先輩は笑う。

2011/05/13

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あきゅろす。
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