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悪戯書き集
最善の友人
目から鱗がボロボロ零れ落ちているサネを見て、僕はなんだか愉快な気分になった。そんな愉快な気分を維持したくて、僕は追い打ちをかけるように彼に質問をする。
「サネ、一つ聞くけれど……。君と親しい仲だった人間は何人いるんだい?」
「…………」
無言。彼は応えない。答えに窮したのではなく、呆けているようだった。
「……いない」
長い間の後、普通と変わらない調子でサネはそう言った。
「『友人を作る』なんて常識、考えたことも無かったな……。お前が指摘しなかったら、今後も気がつかなかった」
無邪気と言っても良い程のサネの返事に、今度は僕が黙り込む番だった。サネに何て言えば良いのかが分からなかったのだ。
友人が出来たことがない、友人を作ろうという発想に至らない。どんな環境で育てばそんな状況になるのだろう。僕には想像出来なかった。もしかしたら、サネと総理大臣というものが直接では関係の無いなように、彼と「友人」というものも知ってはいても、自分には関係の無いものだと思っていたのかもしれない。
「……なるほど。じゃあ……僕は君に一回だけ情を寄せることにするよ」
「うん?感情を揺さぶる様な話だったか?」
首を傾げたサネの話を無視して僕は言葉を続けた。
「僕は君と友達になりたい。例え君が拒もうとも無関心だろうとも、僕は君の友達になりたい」
サネはきょとんとした顔をした後、口元を歪めて笑った。
「ああ、いいぜ。俺の相棒になってくれるというなら、考えてやってもいい」
この台詞でサネが友人関係(交友関係と言ってもいいかも)の常識を全く知らないということが露呈してしまって僕は更に同情した。なので、僕は溜め息をついて呆れ口調を装って言ってやる。
「普通友達になるのに交換条件だとかそんなものはつけられないよ。それに、友達と相棒が両立するのかも疑問な所だね」
「ふうん……」
彼の理解したのかしてないのかよく分からない返事に少々不安になったものの、僕はサネという人間をちょっぴり理解した気がした。
彼は常識を覆す力を持っているくせに常識を知らない。常識を知らないから無意識に覆せるのか、覆せるから常識を知らないで生きていけたのか、それてもただの彼の無学か。理由は分からないけれど、だからと言って彼の日常まで常識を覆させたものである必要はない。
同情だとか偽善的なことはするべきではない(さっきしてしまったけど)。僕が行ったことは彼の選択肢を広げる行為だ。サネが普通と異常を両方知った上でどちらかを選ぶのなら問題はない、片方しか知らないのが問題なのだ。
「多々角」
「何だい?」
ぱくっ。僕の注意が逸れた一瞬、僕のウインナーがサネの口の中に消えた。
「あーーッ!」
「美味かったぞ」
ドヤ顔のサネに文句を言ってやろうと口を開くが、遮るように彼は言葉を続けた。
「この礼はいつか返してやるよ。友達だからな」
「友達の意味、はき違えてるんじゃあないかッ」
僕はなんだかムッとして無意味に机を叩いた。

2011/05/02

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あきゅろす。
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