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悪戯書き集
最近の事情
「思ったよりも変わったヤツはいないんだな」
昼休み、サネは当然の様な顔をして僕と一緒にお昼を食べていた。その時、彼はそんな事を言った。
「そうかな、他の学校とかに比べたらずっと多いと思うけど」
「そうなのか」
「転校生なんだから、君の方が分かるんじゃあないのかい?」
僕の玉子焼きを奪おうとするサネの攻撃を箸で防ぎつつ、そう僕は返した。今の彼は初めて会った時よりも、威圧感が減っているような気がする。教室という空間に居るお陰かもしれないが。
「俺が昔通っていた所は二人……いや、三人だったか。それだけだな」
「だろう?」
「だが、母の口振りだとこの学校のヤツは殆ど変わったヤツだ、なんて感じだったぜ」
彼はやけに自信満々で言った。随分母親に信頼を寄せているらしい。見かけによらずマザコンなのかもしれない。
「君の母さんの事は知らないけど、能力者という意味じゃない変人なら確かに殆どではあるよ」
サネに玉子焼きを奪われない内に食べてしまおうと僕は一つを口に入れた。
「たとえば、あそこの黒塚洋輔。周りの友達がみんな能力持ちだとか人外らしいんだ。けど、その本人達よりも能力の事を分かっていて指示がだせる。だから『能力遣い』だとか呼ばれてる」
僕の口元に集中する彼の視線を無視して、僕はチラリと黒塚洋輔の方を見た。
「あっちの秋条冬彦はパペットを持ってるだろう?あのパペットを使って冬彦のもう一つの人格と会話することが出来る」
「それでも能力者じゃあないのか……」
サネは冬彦の動かすパペットを不思議そうに見つめながらそう呟く。
「普通の人間に出来るか出来ないか、それが境目だと思っているよ」
「その常識、俺が覆してやりたいな」
僕は彼の能力を間近で体験していながら、未だによく分かっていなかった。常識を覆す、なんて曖昧過ぎる。
「……ところで、どうして僕は君と一緒にお昼を食べなきゃいけないんだ?」
ごくん、と玉子焼きを飲み込んで僕は今更過ぎることを言った。考えてみれば、無愛想にするならまだしも親切にする必要は無かったと思う。いや、敵視する必要も今ではあまり無いが。
「相棒と仲良くなる努力をするのは当然のことだろ。誰だってとは言わないが、少なくとも俺はそうするぜ」
「……誰が君の相棒だって?」
サネの意味不明な答えに僕は思わず聞き返した。僕とサネは出会ってまだ数時間ではないか。
すると彼は急に真面目な顔になって、ぐいっと僕の目を覗き込んだ。
「お前をもっと観察させろ。俺に見定めさせろ」
僕は何も返すことが出来なかった。反論だとか文句だとかそういう物を全てねじ伏せてしまいそうな空気が彼にはあった。
「……ン、次は数学だな」
数瞬の無言の見つめ合いはサネがそう言ったことで終結した。サネは残ったパンを口に詰め込み始める。
「サネ」
「何だ?」
彼は視線だけこちらに向ける。
「相棒になる前に友達になることから始めたら?」
ぽろり、と。サネの手からパンが転げ落ちた。

2011/04/25

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