[携帯モード] [URL送信]

悪戯書き集
最初の偶然
「赤空核だ」
どうやら転校生らしい彼はよりにもよって僕のクラスに来た。サネはクラス全員の視線に臆することなく、堂々と腕を組んで立っていた。
「……他に何か言うことはありますか?」
話は逸れるけれど、小説ではこういう時に出てくる教師の性格は結構極端に分かれる。俺様転校生に虐げられる立場の弱い教師、逆に脅し返す教師。前者は転校生のキャラクターを分かりやすく僕達に伝えられ、後者はその教師というある程度の強さの上限が決まる。
僕のクラスの教師はそのどちらでも無い。キャラが濃すぎず薄すぎず、常に中立、常に平均、まるで空気のような人間。彼の行動は周りの人間に否応無く物事を進行させる。かといって機械のように冷たい訳ではなく、むしろ人間味を感じさせるしそれは嫌な物ではない。
そんな教師の質問に、サネも従ってゆっくりと首を横に振りかける……が、ふと思い出したように口を開いた。
「……俺の力は『常識を覆す』。俺はいつかこの学園の最上で最高で最強に、なる。必ず……だ」
ぐるりと教室を見渡した彼は、クラス全員に聞こえる声でハッキリと言った。この時点で人外一般者問わずクラス全員の人間が分かったであろう、彼はファンタジー側の人間であると。
「皆さん早く赤空君と仲良くなりましょうね。では、赤空君は多々角さんの隣に座って下さい」
教師はこの状況ではむしろ異常だとも言えるテンプレート通りの台詞を言ってサネの紹介を終えた。
「やあ、多々角円。さっきぶりだな」
僕の隣の席についたサネは僕のことを覚えていたようで、早速話し掛けて来た。
「……そうだね。さっき会った僕達が同じクラスで隣の席になるなんて凄い偶然だ」
「偶然?」
サネはフフンと笑った。
「その偶然は俺が覆した必然だ」
「……つまり、偶然じゃあないってこと?」
「いや、偶然さ。必然の反対は偶然、これは常識じゃあなく決まり事だ」
僕は得意気に笑う彼の言いたい事がよく分からなかった。仕組まれていた偶然なんて偶然じゃあないと言いたかったけど、既に彼の興味は僕から逸れてしまった様で、僕にそれを言う機会は訪れなかった。

2011/02/28

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!