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悪戯書き集
オランジェット・エンペラー
チェティに間違いを指摘されてから数日後、エタナーは何事も無かったかのように帰ってきた。鎖でぐるぐるに縛られたディロイを連れて。
「おかえりなさい、エタナー……と、ディロイ、さん?」
「……ただいま」
エタナーは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに私の誤解が解けている事が分かったのだろう、フッと笑って挨拶を返してくれた。
「あの、ディロイさん……どうしたんですか?」
「これが裏切り者だ」
「えっ!?」
ディロイは目を血走らせ、口も縛られていなければ今にも噛み付いて来そうな様子だ。だが、縛られているのに体には暴れた跡どころか傷一つついていなかった。
「部屋の前までは連れて行く。チェティ様への引き渡しは頼む」
「分かりました」
また彼を見てみると縛られているのに不気味に笑っていた。エタナーは無視して引き摺っていたが、暫くすると猿ぐつわの間から笑いが漏れてきた。
「エタナー、何かおかしいです!」
エタナーも彼の様子に気がついたようで、手を振って猿ぐつわを消した(猿ぐつわも金属製だったらしい)。
「きゃはは!俺が捕まる事を想定していない訳無いじゃん?」
ディロイは口が自由になるや否や下品な笑い声を上げた。
「もーすぐ俺の愉快な部下達が来ちゃうよぉ?」
「っ!何処まで情報を漏らしたんですか!?」
焦って彼に詰め寄る私をエタナーは黙って引き離した。私はそれで冷静になって睨んだが、ディロイは馬鹿にしたように舌を出す。
「今は昼!吸血鬼の時間じゃない、俺達の時間だ!きゃはははは!!」
「――そうか。ならば、吸血鬼にやられた今、どんな気分だ?」
ぞわ、と背筋が震えた。赤よりも紅い髪と眼、青年になっても見間違える筈が無い。
「……チェ、ティ……!」
チェティが話すまで、誰もチェティの気配に気が付けなかった。今も目を離せば闇に溶けて消えてしまいそうな、そんな気配の薄さだった。それなのに、絶対に逆らえない様なオーラをひしひしと感じる。
「ロット、エタナー、ついて来い」
チェティは不敵に笑ってマントを翻す。行く先はいつもの部屋だった。
「ほうらディロイ、見てみろ」
そう言って嬉しそうに彼が見せた物は、幾重にも積み重なった死体だった。部屋中何処も彼処も、死体、死体、死体。それらは全てディロイと同じ様な黒い服を身に纏っていた。
「昼は君達の時間だ。――だからどうした?吸血鬼の絶対的な力があることには変わりがない」
ふはは、とディロイを見下ろすチェティはおもむろに近くの死体を掴み、首筋に噛み付いた。
「テ、メェ……!俺の部下に触るな……ッ!!」
そんな願いをチェティが聞く訳も無く、噛みつかれた死体はみるみるうちに干上がり、砂に変化してしまった。茫然としながらそれを見るディロイに、彼は顔をしかめながらこう吐き捨てた。
「やはり不味いな。つまらん」
ディロイの顔が憤怒のそれに替わるのは一瞬だった。
「お前の手で殺されるのだけはゴメンだね」
ゴポ。嫌な音がしてディロイの口から血が溢れ出る。
「舌を噛み千切って自害を謀るか。それも許さん」
チェティは自分の親指を噛み千切ると、その千切れた親指を彼の口に突っ込んだ。
「エタナー、しっかり押さえとけ」
しばらくその状態で居ると、床に垂れたディロイの血が震えだした。そして次の瞬間、その血は彼の体内に吸い込まれ消えた。チェティはそれを確認すると指を彼から離す。その指は傷一つついていなかった。
「寝る。拘束したまま牢屋にでも入れておけ」
くあ、と欠伸を一つ。死体を踏み潰して奥の部屋に入っていったチェティはもうすでに退屈そうな顔をしていた。

2011/02/05

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