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悪戯書き集
ザ・オランジェット・フール
真夜中の月明かりの下、煌めく銀の影が一つあった。
「裏切り者のエタナー、見っけたぁ」
その銀色に近付く声がした。銀色の影、エタナーは微動だにせずに視線だけそちらに向ける。
「……ディロイ」
「きゃは、御主人にしかキョーミの無い旦那でも、俺の名前覚えててくれたんだねぇ」
物陰から出て来たディロイは人懐っこい笑みを浮かべて、ひらひらと手を振った。
「…………」
エタナーは何も答えずに懐からナイフを取り出す。それに応えるように唇を歪めてディロイも大量の針を手に出現させた。
エタナーとディロイは同じチェティに仕える身だ。その二人が戦うということは、つまりどちらかが裏切ったということだ。
「それにしても御主人って何考えてるか分っかんねぇよなー。だから旦那も裏切ったんだろお?」
「裏切ったのは……お前だろう?」
「ありゃ、バレてたんだ」
きゃー、とディロイはわざとらしく悲鳴を上げる。そして軽く腕を振って針を投げた。それをエタナーは最小限の斬撃ではたき落とす。
「ぜってーバレねぇと思ったのになぁ。御主人は出てこねぇし、嬢ちゃんは甘甘。旦那は御主人しか見てないしぃ?何で分かったん?」
「それは……」
エタナーの声が途切れると同時に、彼の姿がディロイの視界から消えた。
「お前に言う必要は無い」
その声が聞こえたのは、ディロイの背後からだった。瞬間、ディロイは反射的に振り向いて針を投げながら離れていた。
「いや、言った方が良いのか。チェティ様の様に」
針が触れるか否かの一瞬でエタナーの姿はもう別の場所にあった。
「な、んで……ッ!?」
「言う必要は無い……と言いたいが、答えよう」
動揺を示すディロイを馬鹿にするかの様に、無表情を崩して小さく笑ったエタナーはナイフをしまい、右手を前に出す。ずる、と手のひらから鎖が現れ、それに絡みつくかのように周りから銀糸が鎖を包む。
「まさか、まさか……ッ!旦那が『金属通し(シルバーロード)』だったのか!?」
「……いかにも」
『金属通し(シルバーロード)』とは、有名な二つ名だ。金属と融合出来、金属を通って一瞬で移動出来ることからこの名がついた。
「……てめぇ、んな強ぇー力持ってんのに何で御主人なんかに仕えてんだ」

「それこそ言う必要は無い、だ」
無表情のままエタナーが腕を振ると、ディロイが避ける間もなく体に鎖と糸が巻き付いた。
「ク、ソがァ……!」
「お前はチェティ様の食糧だ、俺が殺す事もお前が自分を殺す事も許されない」
エタナーはにっこり、と笑って見せた。
「光栄に思え」

2011/01/31

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あきゅろす。
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