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悪戯書き集
オランジェット・デビル
「ロット」
チェティが私を呼ぶ声が聞こえた。
「はい、此処に居ます」
彼女の部屋に足を踏み入れれば、チェティは長椅子に横たわったまま小さく手招きした。彼女は私が長椅子の脇に立ったのを見てからニヤリと口を開いた。
「肉体を替えてみたのだが、どうだろう?」
先日の未成熟な幼女の体とは違い、今日のチェティは妖艶さを醸し出したしなやかな女性の体だった。吸血鬼は肉体にさえ縛られず、自由に体を変化させる事が可能だ。私はしばし考えてから、いつもの台詞を言った。
「……別にどうもしません。今日もチェティは変わらず美しいです」
チェティは不満げに鼻を鳴らした。こういった褒める役はエタナーの方が何倍も上手いのは彼女だって分かっている筈なのに、どうして毎回私を呼ぶのだろうか。そうは言っても、素直にエタナーを呼ばれても妬いてしまうのだが。
「差し出がましい事を言うようですが、いつまで女性で居るご予定でしょうか?月の物が来ない内に戻すのが宜しいかと……」
私はチェティに何か言われる前に話題を替えた。彼女、と言ってはいるがチェティの性別は本来男である。
「君はどちらが良い?」
「私は別にどちらが良いとも思いません。チェティが美しいのに変わりがありませんので」
「……つまらない答えだ」
チェティは眉間に皺を寄せて天井を見上げた。
本当はどちらでも良いというのは嘘である。男が良い。男であればエタナー含む他の男に盗られる事も無く、女が私しか居ないこの状況では安心出来る。チェティに対して独占欲を湧かせるというのは何処か妙な上、恐れ多い話ではあるが。
「そうそう、裏切り者が居るらしいぞ」
唐突に、彼女はそう言った。裏切りだというのに何処か楽しそうな口調である。
「――喰わせろ」
チェティは口元を歪めてそれだけ言った。
「仰せのままに」
私は深く頭を下げてから部屋を出て行った。

2011/01/30

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あきゅろす。
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