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悪戯書き集
道場の話
市衣紫乃は剣橋家の剣道道場に通っている。
「やぽー☆」
「おはようございます」
道場はいくつも分かれていて広い。とてつもなく広い。紫乃はいつも使っているので迷う事はないが。紫乃が使っている部屋に入ると先客が居た。同じ修行部屋の七輪士道だ。
「士道は来るのが早いんだよ?」
「紫乃が遅いから」
士道はへらりと笑う。
「着替えてきなよ。紫乃と手合わせしたい」
「分かってるよ。私も早く手合わせしたいんだよ」
紫乃が着替えてくると、士道は素振りをしていた。
「士道、いいよ?」
そう紫乃が声をかけると士道は素振りを止め、紫乃の方を向く。
「じゃあ、行くよ」
その言葉を言い終えない内に士道は左手で木刀を横なぎに斬る。紫乃はバックステップで後ろへ回避する。
「あれ、これ喧嘩だよ?」
紫乃は首を傾げつつも愛用の木刀を持つ。
「たまには喧嘩もしないと実戦に使えないでしょ?」
これは剣道ではなく剣を使った喧嘩。
「おっけー。私も喧嘩したかったんだよ!」
紫乃は嬉しそうにひゅん、と木刀を振る。
「市乃流は最強なんだよって事を証明してあげるんだよ?」
「こっちこそ、仁恩流の方が強いって事を証明するよ」
二人とも同時ににぱりと笑って剣を振るった。

剣橋家というのは今こそ道場として身近に存在するが、昔は剣に秀でた一族の集まりだった。
それぞれがそれぞれの型を持ち、それが市乃(いちの)、仁恩(におん)、傘箸(さんばし)、司期(しき)、互閣(ごかく)という流派に分かれていった。
元々が戦闘としての一族なために、剣道としての域を越え戦いのために使うこともできる。
「――ですが、神聖なる場で許可無く喧嘩などとは言語道断以ての外」
暦は腕を組んで、正座した二人を見下ろしている。
「わ、私は誘われたから乗っただけだよ?」
「紫乃ひどいよ!」
「黙りなさい」
暦は二人に強烈なデコピンをかます。
「「〜〜〜!!」」
のたうち回る二人を暦は見なかった事にした。
「紫乃、あなたは先陣型の市乃流の中で一番強いのですから、もう少し自覚を持ちましょう」
「バイトのくせに…」
「なにか言いましたか?」
「いいえ何も?」
「よろしい。士道、あなたは見切りという素晴らしい能力を持っているのだから無闇やたらと使うべきではありません」
そこで初めて暦は笑顔を見せた。
「あなた達は見込みがあるのですから、実戦を重ねるのはもっと型を極めた後でも構いません」
暦はそのまま出て行こうとするが、入口で立ち止まって振り返る。
「あ、そうそう。道場外ならば練習では無いですし、本当の喧嘩になるでしょうね」
今度こそ暦は出て行った。
「「………」」
少し沈黙。
「外、出ようよ?」
「オレもそう言おうと思ってた」
その後は会話も無く二人は並んで道場を出た。
途端。
「市乃流、卯月天!」
紫乃はどこから出したのか木刀を取り出し、士道へと向ける。
「み・き・り」
紫乃の攻撃を士道は緩慢とも言える動きでゆるりとかわす。と同時に竹刀を取り出す。
「仁恩流、海融」
士道はかわした動きに乗って左を軸足に舞うように竹刀を横に振る。
紫乃は大きく後ろに跳ぶ。
「ここならオレ達、喧嘩しても良いんだよね」
「いいんだよ」
二人はにぱりと笑った。

2009/05/22

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あきゅろす。
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