じにーくん





「明日の授業はなんだっけ」






目覚めたばかり。目を開いて、まだぼんやりとした様子で彼女の口から出てきた。「さぁ、ね」俺がメアリの受ける授業なんか知るわけないじゃん。学年違うし。薄く開いた口から覗く赤い舌を見ないふりをする。(赤い舌がたいそうあたたかいものだというのは俺がよく知っているし、俺以外が知っていたらひどく腹が立つことだと、思った)「…そっか」俺の裏にあるささいな不機嫌を読み取ったメアリは、すこし申し訳なさそうに眉を下げる。流石に、ハーマイオニーにでも聞いたらいいんじゃないの。と、言いかけたものを俺はのみこんだ。これはちょっと意地悪な言い方になってしまうから。たった1年の差に対する俺の苛立ちも含んでしまいそうだから。やめた。メアリにも、ハーマイオニーにも悪いし。メアリいじめたってどうしようもないし。…こんな風なことばかり気にしてるから、いつまでたっても子供っぽいままなのかもしれない。(そうしてキミはまた俺を弟扱いしたりする)(もう既に恋人になったのに)メアリ。




ごめん、とちいさく呟いて彼女の腕をひっぱると、簡単に俺の方に傾いた。触れたところからぬるい温かさを感じる。ぬるい。けど俺の好きな(人の)体温だ。大丈夫だよ。顎の下、俺の胸の辺りからちいさく聞こえた。耳がぐわんぐわんと鳴る、だいじょうぶ、このたった7つの彼女の声音で。やわらかく、きれいな音だ。彼女の額の髪の毛を掻き分けて、キスを1つ落としたくなる(ぶっちゃけるとほんとはメアリの口にも1つ落としたい)けど、そこから先のブレーキがちゃんとかかる自信がなかったので我慢した。あぁ、なんか、かっこ悪いなぁ。頭の片隅でフレッドとジョージという我が性悪な兄達が笑っている姿が出てきて、ちょっともやもやした。そうしてる間にもメアリは俺の心臓の上にこてんと頭を乗せてくるもんだから俺はすこし困ってしまった。このあり余ってしまったエネルギーはどこにやればいいんだろう、と我ながら残念な思考にため息が出そうになる。し。(ほら、そうやって俺の手首を掴んで、“やっぱり男の子なんだねぇ”とか、言うの、やめて)(お、俺、つらいんだけど!)そんなこと考えつつもちゃっかりメアリを、自分の腕で囲ってるところが、抜け目ないよなぁ、俺。「ジニー、眠いの?」「ううん、べつに」実はちょっと眠かったりする。「眠そうな目をしているけれど、」俺の目をじっと見上げて、メアリはおだやかに言った。自然と目が合ったし、合ったついでに視界の端に彼女の首元が見えた。「ねむくない」ごまかすようにメアリの頭に手をのせる。思えば、メアリの頭を撫でるなんて、半年前の俺にはきっとできなかっただろうなぁ。あの頃の俺は“おとうと”みたいに扱われるのが嫌で嫌で嫌で嫌で…必死だった。ほんと、かなり必死だった。(こういう未来に繋がって、ほんと、よかった)「…赤ちゃんってね」いきなりメアリが切り出した。「お母さんの体温とか、心臓の音とか、すごく安心するんだって」「へぇ」「だから、ジニーも今そんな感じなのかな」「なんですと」おいおい。自然と眉間に皺が寄るのを感じながらメアリを見ると、わらっていた彼女は俺の顔みてさらにおかしそうにわらう。あぁ、これならまだ“おとうと”のがマシだ。いろんな意味を込めてメアリをじっと見返してやると、メアリはクスクスわらって俺の頭を撫でるだけだった。「……今度は赤ちゃん扱い?」「ぎゅって抱きしめてあげようか」お母さんみたいに。「勘弁してよ」俺の心からの言葉にメアリはたのしそうに目を細めてくすくすと声と立てる。苦いものがこみ上げてきた。「やめろって」俺はちいさく開いた彼女の口をそっとおさえた。まったくこの口は。「いつもメアリは俺に意地悪だ」拗ねたように言った後でパッと手を外した瞬間にそっとキスをした。軽く触れただけで、空気がとまって、ひどくあまい香りがしたような気がしたメアリの唇は体温よりもずっと温かくて、離れるのが名残惜しかった。「メアリ、寝よう」じにー、と何かをいいかけたメアリの声を遮るように彼女の額の髪を掻き分けて、キスを1つ落とした。「母さんにこんなことしないだろ」メアリは、なにも言わず、うなずいた。メアリは、俺の恋人だ。




You aren't my mother
(はじめての睦言は君が教えてくれた)








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