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四月馬鹿




目が覚めた。見慣れた自分の部屋の白い壁と、朝のどうしようもないくらい眩しい日差しに視界を占拠される。

「ヒバリー。あんま寝てっと溶けるぜ?」

寝覚めた最初に僕の耳を占拠したのは山本の声だった。カーテンを開けて、まだ半分精神を置いてきた僕の全身に容赦なく光を浴びせる(寧ろこの朝の光に溶かされそうだとぼんやりした頭で思った)。部屋中が白い光に包まれる。

何故か、山本に妙な既視感を覚えた。今日のうちで初めて会ったという気がしない。ついさっきまで話していた様な気がする。

「あぁ、そうか。さっきまで君に会ってたんだ」
「え?」
「夢に君が出てきたよ」
「マジで?どんな夢?」

言われて少しずつ思い出した。






見慣れた横顔がそこにあって、後ろには夜の海があった。何処からが海で何処からが砂浜なのか分からないくらい、闇が深かった。「朝がくるまでにここを出ねぇと」。山本は確かそう言っていた。普通に会話していた筈なのに横顔ばかりが記憶にある。

波音はしなかった。ただ、人が寝静まっているというのが分かる様な静けさがあった。砂浜の白さが闇の中で際立っていた。少し湿気を含んだ風が吹いていて、多分心地よく眠れる夜だったと思う。何も邪魔するものはなかっただろう。


それなのに僕は、眠らずに山本と話をしていた。

海には一艘の白い小舟が浮かんでいて、どうやら彼はそれに乗るつもりらしかった。頼りない舟だった。少しの風で転覆しそうに見えた。


「ヒバリ」。不意に彼が名前を呼んだ。声につられて顔を上げた。

彼は正面を向いて微笑み、手を差し出した。





「死んでやろうか、一緒に」





全てを思い出し、そして覚醒しきった僕は閉口した。何て事だ、と思った。横でしきりに内容を話してくれとせがむ山本を一瞥し、溜め息をついた。

「まさか君に情をかけられるなんて」






その一言が、
(僕を弱らせる)


coccoさん「四月馬鹿」イメージ




あきゅろす。
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