日曜日の塔
僕は本を読むのがあまり好きではない。椅子に座って、頁をめくるという単純な作業を繰り返す事に飽きを感じる。第一、書いてあることがどれも同じだし、共感できない。僕が一般的ではないからかもしれないが、それは論外として。何故なのだろうか。それでも嫌いにならないのは、彼が読書家だからだろう。よく本を読んでいるのを目にする。
一つの図書館のようなくらい沢山の本。
その中心で彼と僕は暇潰しに読書をしていた。
こぢんまりとしたテーブルにソファー。長時間の静止状態に疲れたのか、彼はどっかりとソファーに寝転んでいる。大部分を占拠されてしまった僕は、仕方なく端へと寄るはめになった。
無駄に長い脚なんだから。
負けじと場所確保の為に押し退ける。
すると、彼は僕の足の裏と自分のをぴったりと合わせてぐにー、とストレッチのように伸ばしてきた。
僕もしてやる。
だが、いかんせん短い。押し返せたのはいいがいっぱいいっぱいに伸びきった足が震えてくる。
‥つりそう。
「ベル。」
「どしたマーモン?」
何事も無かったかのようにしれっと聞き返すベル。
にやけているのを隠そうとしているみたいだけど、丸見えだから。
口の端、しっかり上がってるからね。
せっかく折れてやろうと思ったのに、ベルの奴‥
「何でもないよ。」
「用もなくなんて珍しいね〜」
気付いて今頃隠したって遅いよ。
ばればれだし。
「なんとなく。名前を呼んでみた。」
「あ、そう。」
これは僕の勝ち、かな。
ベルに笑いかけてやってから、近くにあった一人用の椅子に座り直す。
先程まではただ持っているだけだった本に目を移して、軽く読む。
適当に目についた色を取っただけで題名も内容知らないけどそれはまだ読めるものみたいだ。自分が活字に引き込まれるのが分かる。まだ客観的に自分が見れるということは、まだまだ集中して読んでいないということだけれど僕には珍しい事だった。
だけど、やはり飽きはくるもので。
「‥ベル‥。」
「何?」
「え」
わざとらしく聞き返す。
活字から目を離さないベルはうわごとのように言う。でも意識は向けてくれているのは判る。
「名前呼んだ?」
「呼んでないよ。」
なおもベルを見つめながら聞く。
いつでも戦えるように本のページは開けたままで
「聞こえたけど」
「字を知らずと口に出してたんじゃないかな。」
「そっか。」
あれ、仕掛けてこないや。
つまらないな。
また集中し始めたベルの金髪を軽く睨んでから、テーブルを引き寄せその上に腕を伸ばして乗せる。
ぱらぱらとページをめくって遊ぶ。
+゚+゚
ぱたむ。
後書きまでしっかり目を通した本を閉じて、凝った体を伸ばす。思ったより分厚くて時間がかかってしまった。ずっと体制を変えずにいるのは意外と辛い。
急に頭へ血が上ったみたいで、眩暈を感じた。耐える必要も無いので、立ち上がった躯をまたソファーへとなだれ込ませた。
目を閉じて力を抜く。
「マーモン?」
あまりの長さに退屈してしまっただろうかと思案しつつ、名前を呼ぶ。少しの罪悪感と共に。
「‥」
返事がない。呆れて出ていってしまったのか。いや、それは気付かない程熱中していた俺のせいだ。
まだ見て確認していないという理由を付けて、もう一度。
願いもこめて。
「マーモン〜」
「‥」
やはりか。
やっちまったなー。でもこれって一つの特技じゃね?とか思いつつ脚を振った反動で起き上がると、
「‥寝てるし」
テーブルに突っ伏して静かに寝息を立てるマーモンが。
髪で隠れて表情は見えないが、怒っているわけでも呆れているわけでもなく。単に眠気に耐えられなかったのだろうと推測できる。だって、とても幸せそうだから。
俺は安心して一息ついた。
テーブルまで近寄って、同じように腕を乗せる。
「マーモン?」
「ぐぅ。」
「お、返事した。」
マーモンが可愛いくて、虐めたくなる衝動が押し寄せる。だけど折角寝ている所を起こすのはよくないと判断して、眺めるだけに留めておく。我ながら懸命だと思った。
風邪を引くといけないから手近にあったケープをかける。もらい泣きと同じ原理か、眠たくなってきた。
ソファーに戻って横になる。体中を睡魔が侵食していくように、意識は落ちていった。
暖かい日差しを感じながら。
日曜日の塔
(僕と俺と、時々‥?)
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