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episode0-B
「隆さん、息子さんを連れてきてくれてありがとうございます。親子そっくりですね。あ、でも鼻は奥さん似かな」
「王様の御命令とあらば、とんでもございません」
目の前に繰り広げられてる光景に狩人の息子は、口をぽかんと開けてしまいました。
いつも家でふんぞり返っている父親が頭を下げていますし、その相手は正面の金ピカの椅子で金ピカの冠をかぶっている紛れも無い王様でした。
どうして自分がこんな所に連れてこられたのか狩人の子には、さっぱり分かりませんでした。
いつも山から見下ろしていたお城は、この世で一番高いと思っていた山の上の杉の木よりずっと大きくて、ここが人の住む場所とはとても思えませんでした。
「名前はなんという?」
「お前が聞かれたんだ、答えなさい」
父親にうながされて、狩人の子は口を開きました。
「阿部隆也です」
「そっかぁ、隆也君か。名前もお父さんと似てるんだな。隆さんと隆也君」
「似てないです」
狩人の子はきっぱり言いました。父親と名前が似てると言われるのが、狩人の子はなぜか嫌いでした。父親の真似をしてるように聞こえるからです。名前を付けたのは父親なので、父親が自分にわざと真似させてるのに、おかしいと思っていました。
「隆也!」
口を尖らした子供に、狩人はさらに怒鳴ろうとしましたが、王様が首を振って止めました。
「それじゃ君をなんて呼べばいい?」
「阿部でいいです」
「そうか、分かった」
「すみません、生意気な奴で」
隣に立つ狩人が頭を下げました。
「いや、頼もしいですよ。さっそくだけど阿部、君に頼みがある」
「なんですか?」
「うちの子に会ってほしい」
「え?」
「うちの子と遊んでくれ」
唐突な王様の話に、狩人の子はすぐに返事ができませんでした。父親よりずっと若い王様の子供は、きっとまだ自分より幼いはずです。
「それって俺に子守をしろってことですか?」
「隆也!!」
狩人の二度目の怒声が大広間に響きました。
「だってシュンより小さいんだろ。そんな赤ん坊の世話、なんで俺がやるんだよ」
「あのな隆也、王子様は……」
その時でした。けたたましい音と共に、大広間の扉が開けられました。
「王様、一大事です!王子様がっ!!」
血相を変えてやってきたのは、王子付きの先生でした。
「王子がどうした!」
「お姿が見当たりません」
「何があった?」
「お勉強の途中に休憩をしたい、とのことでしたので。書庫に本を取りに行き、お部屋に戻ったら……方々探したのですがいらっしゃいません」
「警備隊長を呼べ!至急、城の門全てを封鎖させろ」
王様は椅子から立ち上がると、命令を出していきました。
「誰か侍従長に、手の空いてる者達で城内を探すように伝えろ」
「はっ」
自ら扉の方へ向かう王様に、狩人は声をかけました。
「王様、どちらに」
「探しに行くに決まってる」
「待って下さい。万が一、の場合があります。貴方様はここにいなければ」
「………」
「代わりに私が行って参ります」
「頼んだ」
口を噛み締める王様に一礼すると、狩人は身を翻して出て行きました。
残された狩人の子は、扉をじっと見つめている王様に聞きました。
「あの……父さんはどこ行ったんですか?」
「私の子を探しに行ってくれたんだ」
「見つけるのなら俺のが得意だよ」
「君が?」
「子供の隠れてるトコは子供が一番知ってる」
「それもそうか………それじゃ、頼んでみようかな。ただし、城の地下と二つの塔には行ってはいけないよ。もし入ってしまったら、君は二度とお家に戻れない」
「わ、わかった」
王様の本当か嘘か分からない話に頷いて、狩人の子は大広間を出て行きました。






まず最初に狩人の子が向かったのは王子の部屋でした。そこに行くとこの辺りにはいない、と確信しました。その部屋には大層な机と本棚がありました。小さな子供には退屈極まりないものです。
部屋から逃げ出しても、あれではしょうがないと狩人の子は思いました。逃げ出してもきっと城の中にはるはずです。子供の遊びといえば、隠れんぼ。城の警備が厳重といえど、王子にとっては家なのです。抜け道ぐらい知ってるはずです。
狩人の子は庭園に出てみました。
広い庭園のあちらこちらには、すでに剣を携えている警備兵達が巡回してました。ここにもいない、と狩人の子は植木の間を抜けて、厩舎の脇を通り城の裏へ裏へと進んで行きました。次第に人気がなくなり、周りは城壁と木と草しかなくなりました。
そこで、狩人の子は足を止めました。
裏庭にぽつんとある切り株に子供が一人、ちょこんと座っているのを見つけたのです。
「よう」
狩人の子が声をかけると、その子は体をびくっとさせて振り向きました。目の前の子は、狩人の子と同い年くらいでした。ただとても驚いたようで、目を大きく開けてこちらを見ていました。
「こ、こんにちは」
「こんなトコで何やってんだ?」
「僕?えっと……この木を見てたんだ」
その子は目の前の大きな木を指差しました。
「これがどうかしたのか?」
「ずっと登ってみたくて」
見上げている木は城壁と同じくらいの高さがありましたが、山育ちの狩人の子には、どこにでもある普通の木でした。
「んじゃ、手伝ってやろっか?」
「え?」
「一緒に登ってやるよ」
「本当に?」
「うん。そのかわり、俺も手伝ってほしいことがあるんだ」
「いいよ、僕手伝う」
「よし!じゃ、登ろう」
「ねえ、あの……君の名前なんて言うの?」
切り株から立ち上がった子供が聞いてきました。
「俺は………阿部」
「あ、べ?僕は、勇人」
勇人はにっこり笑いました。
「ゆうと……やろう!」
「うん!!!」







こうして、王子と狩人の子は出会ったのです。





続。

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