もてあました恋のカケラ 15 「……こ、こは?」 ナオは、目覚めた。 不安を浮かべた目は、俺の顔を見つけた途端に、安堵で満たされた。 兵器は、ただの少年に戻っていた。 「俺の家だよ」 がらんとした室内。 ナオは室内を見回した。 ベッドと段ボール箱しかない。 「……何番目の隠れ家?」 いたずらっぽい微笑を浮かべている。 「さあ」 俺は、包帯を厚く巻いたナオの左足をそっと手のひらに抱き、口づけた。左足はナオの利き足ではないことを、戦いのさなかに確認している。 怪我を受けて包帯を巻いたのではない。 「すまない。左足の小指をもらった」 ナオは、小首を傾げたが、俺の言葉を理解すると、すぐに、笑みを浮かべる。 「いいよ。僕は、全部、トモのものだから」 そう言うだろうと思った。 俺は、上体を起こしたナオの傍らに座った。頬に手を伸ばす。 俺の笑みに応えて、ナオは微笑みながら首を傾げる。そして、目を閉じる。 キスを待っている。 しかし、俺からは、与えてやらない。 不思議そうに、開いた瞼。 「キスしていいぜ」 ナオはじっと見つめてくる。 「俺に、キスしていいぜ」 ナオは、物問いたげな視線を寄越してくる。 ナオ……。 兵器なんかじゃない。 ただの甘えたガキだ。 俺の前で、いつも泣いている。 「もう、どこにも行かせない」 低く掠れた俺の声。 こんな声が自分から出るとは思わなかった。 愛おしい……。 もてあますほどの想いが胸にこみ上げてくる。 誰にもナオを引き渡すことなどしない。 この想いのどんなカケラも、もう置いてきぼりにはしない。一つ残らず拾い集めて、俺たちの世界を形作ろう。壊れたら、何度でも何度でも、作り直そう。 ナオの目が見開き、そして、潤み始める。 今頃、ナオの小指が、カアサンの元に届いているはずだ。 ナオは死んだ。証拠として死体の一部を送り付けてやった。それだけだ。 戸籍もないナオは、生も死も記録されず、ただ、存在は実物でしか知覚できない。知覚するのは俺だけだ。俺だけのものになる。 ナオが俺のものになるなら、俺もナオのものになろう。 ずっと離さないで、しっかりと胸に抱きしめていこう。 「……僕からのキスを許してくれるの……?」 「お前が与えてくるものなら、何でも受け取ろう」 ナオは息を飲んで、しばらく俺を見つめて、やがて何度もうなづいた。 「……ん」 震えながら、唇を重ねてくる。 涙が、俺の頬に伝わってくる。 俺は、頼りないキスを受ける。 キスが深くなるのを待った。 ナオの唇は、いつまでも震えたままだ。 待ちきれない。 そっと、背中を抱えた。 「んッ……」 ピクンと肩を震わせる体。 柔らかく開いた唇から、舌を差し入れ、ナオを味わう。 力の抜けたナオから、吐息が漏れる。 やっぱり、キスはされるよりも、する方が、ずっといい。 20090823 オマケ [*前へ] [戻る] |