[携帯モード] [URL送信]
俺の本気、見てみるか?

部屋に戻ったフレンは、灯りもつけずに乱暴に鎧を脱ぎ捨ててソファーに腰掛けた。
毎日大量の書類に会議。やることはそれこそ両の手で数え切れない程ある。だが、その事に不満を感じる事はない。むしろ遣り甲斐があり、毎日充実している。
フレンのイライラは、つまり、他の事にあった。

(ああっもうっ…!)

いっそ、手当たり次第に物でも投げ付けてやろうか。そんな物騒な考えまでよぎった時、窓からカタンと音がした。

「お前、灯りもつけないで何やってんだ?」

「っ…ユーリ…!」

窓には相変わらず正面から入って来る気の無いユーリがいた。
フレンは思わず――それこそ反射的に――その存在に抱き着いた。突然の事にユーリはうぉっ、と声を上げたが、すぐにフレンを抱き締め返す。
フレンは「ユーリ、ユーリ」と擦りつき、その存在を確かめるように抱き締める腕に力を込め、気分を落ち着かせるかのようにユーリの首筋に顔を埋めて匂いを吸い込む。
ベタベタに甘えてくる恋人に苦笑しながらも、ユーリはその柔らかな金髪を優しく撫でた。

「どうしたんだよ、いきなり」

「うん…」

気分が落ち着いたのか、フレンは「ごめんね」と、ユーリから離れて灯りを点ける。暗闇に慣れていた目は明るくなった部屋には少し眩しかったが、それもスグ慣れた。
そこでユーリは机に積み上げられたモノに気付いた。それは書類の類いではない。しっかりとした丁装のソレ。
ユーリは「なるほどな」と溜め息をつく。そして、いつの間にかソファーに座って自分を見つめていたフレンを見る。

「見合い写真?」

フレンは黙って頷く。

「それでそんなに荒れてんのか」

ユーリはフレンの隣に座ると、その頭を撫でた。おそらく、というか100%、フレンの立場を利用して優位に立ちたい評議会や貴族達による、政略的なものなのだろう。それも相当の量。フレンがうんざりするのも頷ける。

「まぁ、それもあるかな…」

「それも…って…」

ユーリは思わず溜め息をつく。こいつは、この幼なじみで親友でライバルで恋人・フレンは、一体どれだけのモノを抱えていると言うのか。
いくら付き合いが長く、恋人であるからと言って、そんな事ユーリにはわかるハズはない。だが、わからなくても手助け位はしてやりたい。少しでも、それこそほんの一時でも、その中にある重荷を忘れさせてやりたい。
そして、それが出来るのは自分だけなのだと、ユーリはフレンの空以上に澄んだ青い目を見つめた。

「な、明日モンスター退治に行こうぜ。二人でさ。一緒に退治なんて久しぶりだろ?夕方でもいいから、時間あけろよ?」

突然まくし立てられ、フレンは半ば呆然としながら「明日は午後から非番なんだ」と答える。そして漸く、ユーリが自分に気を使ってくれているのだと気付いた。機敏に自分の変化を汲み取り、あまつさえどうしたら一番スッキリするのか、ユーリは心得たように提案をしてくる。そんな恋人に、フレンは泣きそうな、嬉しいような表情を浮かべて抱き着いた。
そんなフレンを、ユーリは幼子をあやすように頭を撫で、額にキスを落とす。

「今日は特別だかんな」

他に何して欲しい?とユーリが問うと、フレンは少し考えてユーリの唇に口付けた。

「ユーリが欲しいな」

ユーリの唇をついばみながら、フレンはユーリの返事を待たずに帯を解いていく。
しかし、ユーリはそんなフレンの手を止めた。
まさか止められるとは思っていなかったフレンは、少し驚いた表情でユーリを見る。
ユーリは不敵な、ちょっと意地悪な笑みを浮かべている。

「そのお願いは無効な」

「な、なんで…?!」

急に拒絶され、フレンはしょぼんとした、何とも情けない表情になっている。犬耳と尻尾があれば、それこそ垂れまくりだろう。
思わずフレンのそんな姿を想像したユーリは、笑いを堪えつつ、優しくフレンに口付けた。

「別にヤんのがイヤなんじゃねえよ。オレは元からそのつもりだったしな」

だから「コレ」は「フレンのお願い」ではなく「ユーリのお願い」だと、ユーリは屁理屈を並べる。だからそれ以外でしてほしい事を言えと、ユーリはフレンを見つめた。
本当に、この男前な恋人には頭が上がらない。それならばと、フレンは考える。どうにかしたいのはイライラの原因だ。評議会や貴族からの縁談嫌味縁談縁談妬み嫉み縁談皮肉縁談縁談……
フレンは真剣な表情で、ユーリの肩を掴んだ。あまりの気の入り様に、ユーリは思わず身を竦めてしまう。

「…フレン?」

ユーリが問いかけると、フレンはゆっくりと口を開いた。

「中庭の渡り廊下付近に、でっかい落とし穴でも作ってくれないか?」

できれば沢山の人数が落ちるくらいにでっかくて深いのを、とフレンは付け加える。
どやらフレンのイライラは極限まできていたようだ。
そのフレンの提案に、ユーリは「ニッ」と、端からはよろしくないような笑みを浮かべる。

「でっかいのかー、いやー、気合い入るねぇ♪」

もちろん、冗談だというのはわかっている。ようやくこんな風に力の抜けたフレンを見られて、ユーリは今までにしてきた戦歴(という名のいたずら)を思い返した。
幼少時代、二人でよく下町のおじさんやおばさんを落とし穴に落としたり、のろまな騎士連中をからかってやったり(主にユーリがからかい、フレンが謝る役だったが)…二人で色々やってきた。

「なぁ、フレン…落とし穴作るのはいいけどよ」

「ん?なんだい?」

「中庭なんかに作ったら、あの天然陛下とエステルも引っかかんじゃね?」

「……あ!」

それもそうだよねと、フレンは少しガッカリしたように溜め息をついた。大きな落とし穴に落ちるお偉いさん方を想像していたようだ。もしかしたら半分は本気で落とし穴を作る気でいたのかもしれない。
しょうがねーなと、ユーリはフレンの髪をもしゃもしゃとかき混ぜ、おもむろにキスをした。

「そのイタズラの分も含めて、全部受け止めてやるよ」

遠慮せずに全部ぶつけろと、ユーリは微笑みながら腕を広げる。
フレンは数回瞬きをしたが、すぐにユーリの意図を読み、再度その体に抱き着いた。

「いいの?絶対無理させるし、止まらなくなる…」

「わかってて言ってんだよ。変な気遣いも遠慮もすんな」

そこまで言われたら男が廃ると、フレンはそのままユーリをソファーに押し倒した。






数日後、会議に何人かの評議会員が遅れて席に着いた。
彼らの服の所々が少し汚れているのを見て、その会議中、フレンは笑いを堪えるのに必死だったという。





END



甘味とフレンのお願いには手を抜かないユーリ(何か違う)



戻る





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!