願い事…? 「という訳で、皆さん短冊に願い事書いて下さいね!」 何が「という訳」なのか、仲間達はエステルから渡された短冊に目をやる。 当のお姫様はどこから採ってきたのか、笹に次々と飾り付けを施していた。 発端は昨夜。みんなで焚き火を囲んでいると、何故か星の話になり、エステルが城で読んだ本に載っていた「七夕」をやってみたいと言い出したのだ。 カロルとパティは楽しそうに目を輝かせ、楽しそうな事なら反対しないジュディスに、「ジュディスちゃんがやるならおっさんも!」とレイヴンはノリノリで、リタは「バカっぽい」と言いながら「エステルがやりたいなら…」と素直じゃなくとも賛同した。 こうなったら「しない」という選択肢などない。 計らずも、ユーリとフレンもエステルの思い付きに乗るしかないのだった。 「願い事、ねぇ…」 ユーリは手渡された短冊をもてあそびながら空を見る。雲ひとつ無い快晴。これなら夜も満天の星空になるだろう。これで星喰みが無ければ最高だ。 「柄じゃねぇな」 「確かに、君が願掛けなんて、騎士見習いの服くらい似合わないね」 「てめぇ…」 一切の遠慮もなく隣に座ったフレンを、ユーリはじっとりと睨み付ける。その手には、同じ様に短冊が握られている。 「そういうお前は、何かお願い事するわけ?」 ユーリが嫌味っぽく言うと、フレンは、そうだなぁと、短冊を見つめる。 「お願いするなら本人に、かな…」 そう言って、フレンはユーリに視線を向ける。 「何?お前、オレに何かして欲しい訳?」 「してほしいっていうか…」 「何だよ、はっきり言えよ」 口ごもるフレンに、ユーリは、うりゃっと体当たりをかました。 危ないなあ、と言いながら、フレンはその体を抱き寄せる。そして、その紫水晶のような瞳を見つめながら口を開いた。 「これから先、何があっても…ずっと僕の隣にいてほしい」 「……は?」 それは、つまり… 「プロポーズ、デスカ…?」 「になるのかなぁ…?」 何で疑問形なんだよ、てゆうかマジかよと、ユーリは若干痛み出した頭を押さえる。 しかし、フレンは至って真剣だ。それはユーリも十分わかっている。こんなこと、冗談で言うフレンではない。 「物理的に側にいられなくても、心はずっと、君の側に在りたいんだ」 「っ…お、ま…何っ…」 追い打ちでそんな事まで言われ、ユーリはこれ以上何も言えないように、フレンの口を思いっきり両手で塞いだ。痛い、とフレンが文句を言うが、黙ってろ!と、無理矢理押さえ込む。 その顔は、耳まで真っ赤だ。 なんとか落ち着かせようと、ユーリはゆっくりと深呼吸を繰り返す。 何なんだよ、破壊力でかすぎだろ、てかコイツ騎士団長じゃねぇか、あ、今はまだ代理か、いやいやいやそういう問題じゃなくてだな、なんでコイツはこんなこっ恥ずかしい事サラッと言うんだよ、ていうかコレは喜んでいいのか?え?てかオレ嬉しいのか?いや嬉しくない訳じゃねぇけどだなっ…! もはやまとまらないユーリの頭の中を、よくわからない感情と言葉が飛び交う。 フレンは相変わらずユーリに口を塞がれたままだ。律儀に言葉を発さず待っている。 「なぁ…」 「?」 ようやく、ユーリはフレンから手を放して声を出す。顔は相変わらず赤い。 「…それ、一生のお願い、か…?」 「もちろん」 何のためらいもなく、真っ直ぐにフレンは答える。 その真っ直ぐさにはユーリも苦笑するしかない。 「ったく…しょうがねぇな…」 お前もオレもと、ユーリは軽くフレンに口付けた。 「この旅が終わったら、考えてやるよ」 本当はもう、答えは決まっているのだけれど。 フレンにはバレバレなのだろうけど。 それでもフレンは「それでもいいよ」と、今度は自分からユーリに口付けた。 その様子を、仲間達がこっそり覗いていた事は、二人は知らない。 「ユーリは何か無いのかい?」 「ん?あー…そうだな、三食クレープにパフェとか」 「それは叶えてあげられないよ…」 END 世界の平和とか、みんなが幸せにとかは、下町なら自分たちの力でなんとかしようとするよね。 しかし、ユーリが明らかに別人すぎて、自分で笑う← 戻る |