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美食日記
03


耀さんと共に二階の喫茶店に入る。


「ここあるか?」

「はい。ここ、店で使ってる茶葉も売ってて、結構マニアには人気なんですよ」


席に案内され、耀さんの向かいに座る。


「小さい頃知り合いのお兄ちゃんに連れてきてもらったんです。あ、私アールグレイとカツサンドで」

「じゃあ我もそれ食うある」

「かしこまりました」


静かで、オシャレなジャズが流れる店にいると、昔を思い出す。




『紅茶ってのは気持ちが大事なんだ。飲む人に対する愛情が現れるんだぞ』




「名前?」


耀さんが首をかしげる。


「あ、はい」

「ぼーっとすんなある」


はははと笑う。

今は昔の話だ。元気かな、あの人。


「バルコニーもあるあるな」

「出ます?」

「暑いから嫌ある」

「ですよねー」

「お待たせしました」


ウエイターさんが紅茶とカツサンドを二つずつ運び、お辞儀をして去る。

もう飲みなれたそれを、少し香りを楽しみ、口に含む。


「いい香りあるな」

「ですよねー。こう、頭の中に染み渡っていく香りです」

「美味ぇある」

「カツサンドも美味しいですよ!」


そう言って、自分もカツサンドを食べようとしたとき、


「名前!」


静かな店内に声が響いた。

入り口からアルが歩いてきた。なんか顔が恐い。


「アル?ちょっとそんな大きい声…」

「なんで耀と…って、まあそんなことはいいんだけどさ」


アルは周りの目を気にせずずんずん歩いてきた。


「君携帯は!?」

「あ、壊れた」

「オーマイガッ!」


なんだなんだ。耀さんと目を見合わせた。


「落ち着いて聞いてくれ。実は―」

「アル?やっぱりアルだよな!」

「!」


アルの顔が強ばった。

声がした方を向くと、金髪の男性がこちらに歩いてきた。


「知り合い?」

「しーっ!ダメだ名前、目を合わすな!」

「名前?」


男性が私の名前を繰り返した。

アルの頭が項垂れた。


「お前、名前か!久しぶりだな!覚えてないか?」

「えっと…」

「俺だよ、アーサーだ!」

「アー…サー…?」


アーサー。

私の知ってる人間で、アーサーなんて名前は一人しかいない。

アーサーだ、あの、アーサー。


「アーサアアアア!!?」


私はばっとアーサーから距離を取る。






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