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美食日記
01


今日は雲一つ無い晴れ!


絶好の食べ歩き日和である。


「うーん…」


商店街から帰ってきたはいいものの、私は満足出来ずにいた。


「最近ずっと耀さんの中華だったからな…恋しい…」


あの香ばしい香りが!


「香りといえば」


私の味覚も嗅覚も、すっかり元のハイスペックを取り戻していた。


「なんだったんだろ…はっ!」


ふらふらと歩く私の目に、真っ赤な物が飛び込んできた。


「あれは!」


慌てて駆け寄る。

赤くて丸くて、さわやかで甘くて!


「トマトちゃん!」


マンションの隣にある菜園には、美味しそうなトマトがびっしり育てられていた。

私はその中の一つに顔を近づける。


赤い光沢を放ち、大きすぎず小さすぎず、適度に熟れたそれは、ちょうど収穫期のようだった。


「ごくっ…」


これは…絶対大物だ。

今日一日満たされなかった私のグルメ欲も、これを食べたらきっと…。


「いやいや人ん家の物を勝手に…」


しかし、私はトマトから離れられないでいた。


…一つくらい、いいかな?


こんなに食べ時なのに、今食べてあげないなんてトマトが可哀想だよね…!


一個くらい、バレないバレない!


「って訳で、いただきますっ!」


私はついに一つもぎ取り、被りつく。


「んーっっっっ!!!!」


プリッとした食感に、酸味と甘味が口の中に広がる。


「美味しーーー!!!」


「――――ぉー――」


はぁ…と恍惚に息をつく私の耳に、何か小さな声が聞こえた。


「ん?」




「トぉマぁトぉ泥棒ぉぉぉぉーーー!!」



「きゃあああああ!!!?」


振り返ると、そこには般若の如き形相のお兄さんが走ってきていた。


「逃ぃがぁさぁへんでぇー!!」


「いやあああああ!!?」


尚も追ってくるお兄さんが怖すぎて、慌てて逃げる。


「おぉぉぉぉぉ!!!」


「いやあああーー!!」


「名前?」


顔を上げると、前方には耀さんが立っていた。


「救世主!!?」


「何やってるある…」


「耀さん助けてください!」


耀さんの背中に隠れる。


「うおおおお!!」


「…カリエド」


「は?耀やん」


耀さんの近くに来ると、お兄さんはすっと間の抜けた表情になり、首をかしげた。


「いったい何事あるか」

「何ってさっきトマト泥棒が…あ!」

「!!」


見つかった!


「…ってあれ?よく見たら女の子やんか」


「ううっ」


恐怖に耐えられなくなった私は、ついに涙を流した。


「うわあああんごめんなさいー!!つい出来心でぇー!!」


大声で泣き出した私に、男性二人はギョッとする。


「あああ泣かんといて!俺もう怒ってないし!」

「ごめんなさいー!!」

「ちょっ…とりあえず、ご近所さんの目ぇもあるし、うち入ろ?な?」

「いやああ!!怖いー!!食べられるー!!」

「ちょっ!!人聞き悪いこと言うたらあかんて!」


耀さんがため息をついて、私の頭と背中に手を回し、ゆっくり撫で始めた。

不思議と安心して、私は耀さんを見上げる。


「とりあえず、落ち着けある」

「耀さん…」

「た、助かったー」


男性が家の中に入るよう促した。私は耀さんの袖を掴んで放さなかった。






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