美食日記
03
ロヴィーノさんに連れて来られたのは、小さなイタリア料理店だった。
シンプルで何処か可愛らしい外装に、少し驚く。
店に入ると、「いらっしゃいませ〜」と気の抜けた声がして、青年がカウンターから顔を出した。
青年はロヴィーノさんを見て、ヴェッと変な声を出す。
「兄ちゃんおかえり〜。ナンパ成功したの?珍しいじゃん」
「まぁな。名前、弟のフェリシアーノだ」
「よろしくね〜」
「よろしくお願いします〜」
やべぇこの人伝染る。
「ちょっと待ってろよ。今美味いもん作ってやるから」
「やった!頑張ってくださいっ!」
ロヴィーノさんが厨房に行ってしまい、フェリシアーノさんと二人になる。
「ねぇねぇ、兄ちゃんの何処がよかったの〜?」
「え?」
「兄ちゃんいっつもナンパしても失敗ばっかだからさ〜。女の子連れて来たのも初めてだし」
「えーっと、多分誤解されてるんですけど、私、ロヴィーノさんにナンパされて来た訳じゃないですよ?」
「ヴェッ?そうなの?」
「はい。ジェラート奢ってくれると言われたので、ついて来ただけです!」
「…ヴェー。名前、それがナンパっていうんだよー」
フェリシアーノさんと話していると、ロヴィーノさんが大きな皿を持ってきた。
「俺特製、マルゲリータだ」
「うわぁ!美味しそ〜!!」
切り分けられたピザを一口口に運ぶ。
「ふぁ〜」
思わずにやける頬を手で押さえる。
「トロリとしたチーズ。モチモチと、それでいてパリッとした皮の食感。シンプルなのに、またもう一つ食べたくなります〜」
はぁ…とため息をつく。
「ヴェー。名前は美味しそうに食べるね〜」
「美味しいですもん!」
「ま、まだ食べたいんだったら焼いてやってもいいぞ、このヤロー」
若干顔を赤くして、斜め下を向くロヴィーノさんに、はい!と答えようとして、
私の頭に、昼の、耀さんの顔が浮かび上がった。
私を呆然と、眉を下げて見る耀さんの顔が。
「あ…」
「?どうかしたのかよ?」
「ご、ごめんなさい。あの、また来ます!」
何故だかわからないけど、耀さんに会わなくてはいけないような気がした。
「え?」
「あ、おい!」
「ごちそうさまでしたー!」
困惑する二人を無視して、走って店を出た。
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