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だれも知らないひみつ



 涅ネムという存在を作り出した男――ネムにとっては絶対的な存在である――が、石田雨竜という滅却師を研究対象以上のものとして見ていることは知っていた。というよりも、もしそうでなければ研究し終えた滅却師を必要以上に干渉する理由を説明できない。
 けれどネムには、それがどういう感情なのかはわからずにいた。恋愛感情とも違うような気がするし、執着というにはあまりに素っ気ないような気がする。ただわかることと言えば、自分が抱く感情とはまるっきり違うということだけだ。
 背は高いけれど華奢なその身体を抱きしめたい。真っ直ぐな黒い髪を撫でてやりたい。白い首筋に口付けを落としたい。柔らかく微笑む姿を見てみたい――。
 考え出せば切りがないけれど、こんな風に思う感情の名前なら、よくわかっている。
「……ネムさん?」
 遠くから観察していたつもりだったのに、気配に敏感な雨竜はネムの存在に気付いてしまったようだ。こちらを見上げて不思議そうな、不審そうな顔をしている。一瞬なぜそんなにも警戒した顔をするのか疑問に思ったが、自分はあの涅マユリの息子なのだから、それも仕方ないのかもしれない。
 ネムは音も無く近づき、下校途中だった雨竜の前に立つ。
「お久しぶりです」
「あの、どうかしたんですか……?」
 眉を顰めた顔も可愛くて、ネムは傍から見ればわからないほど僅かに頬を緩めた。
「貴女に、会いに来ました」
 真っ直ぐに雨竜の双眸を見つめて口に出すと、一瞬彼女の顔に動揺が走る。寒さの為だけではなく、ほんの少しだけ赤くなった頬が愛おしい。
「何か、あったんですか?」
 目を逸らし、動揺を隠すように口を開く雨竜を、ネムはそれでも見つめ続けた。
「何もありません。強いて言うならば、私が貴女に会いたかった。ただそれだけです」
「か、からかわないでください」
 ネムにしてみればこれ以上ないほど正直に、且つ紳士的に言葉を選んだつもりだ。けれど恥ずかしがり屋の彼女には、揶揄する言葉に思えたらしい。いや、もしかするとそれすらも照れ隠しで、本当はネムの気持ちを理解しているのかもしれない。
 ネムは今度こそ、誰が見てもわかるような、はっきりとした笑みを浮かべた。
「少し隣を歩いてもいいでしょうか」
「……構いません」
 赤くなった顔を背けて、それでも小さく応える雨竜の隣に立ち、ネムは静かに思う。
 マユリがどんな命令を下そうとも、きっと雨竜のことに関してだけは、素直に聞くことはできない。彼女だけは、誰にも渡せない。
 なぜなら自分は。
「貴女のことが、好きです」
 ――彼女を愛してしまっているからだ。



end

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