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何も言わずに突き放してね



 ――いつか。そう、これはいつかの話。
 石田はそう言うと、泣いているようにも見える表情で笑った。まるでその“いつか”が、近い将来必ず来ると言わんばかりに。
 俺はそんな話なんて聞きたくなくて、マグカップを包む石田の手を強く握り締めた。けれど石田は、それでも口を開く。
「もし君が僕と一緒にいることに耐えられなくなったら」
 そこで石田は俺を真っ直ぐに見ると、静かに微笑んだ。哀しいほどに、苦しいほどに、それは綺麗な笑みだった。
 もう何も言わなくてもいいと言いたいのに、俺は結局石田の手を握る自分の両手に、力を籠めることしかできない。
「何も言わないで、突き放して」
 俺は握っていた手を引き寄せると、石田をテーブル越しに強く抱きしめた。
「……わかってるよ」
 でも。
「おまえと一緒にいることが耐えられなくなることなんてねえから、そんな日は永遠に来ないな」
「……馬鹿だな」
 泣きそうな声でそう言う石田が愛しくて、俺は石田を抱きしめる腕に力を籠めた。



end

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あきゅろす。
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