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猫の日



 放課後、石田以外は出払っている生徒会室のソファに座りながら、俺は密かに思っていたことを口に出してみる。
「おまえ、猫みたいだよな」
 お堅い生徒会長様が哀れむような眼でこちらを見たことは、言うまでもないだろう。
「なんだいきなり。というかなんで生徒会に入っていない君が堂々とそのソファに居座っているんだ。出ていけ」
 哀れむような眼のまま辛辣な言葉を吐きだした石田は相変わらずとも言えるが、その様子も毛を逆立てている猫のように見える俺の目は相当ヤバい。いや、頭がヤバいのか?
 自覚があるだけマシだが、だからと言って末期であることには変わりない。
「部活も終わったし、一人頑張ってる生徒会長様を待っててやってるんだよ、少しくらいはいいだろ」
「待っててくれと頼んだ覚えはない」
「……そうですね」
 相変わらず可愛くねえ野郎だ。
 思わず溜息が出そうになるが、それでもこいつと一緒に帰りたいという気持ちは変わりそうにないので、大人しく待っていることにする。生徒会の奴らがいたら流石に追い出される、というかそれ以前にここに入れてくれることすらないが、今は誰もいないので、流石に石田も無理やり追い出すことはないだろう。いや、そうであって欲しい。
「そういえばさっき猫がどうしたとか言ってたけど」
 俺がそんなことを考えていると、石田がらしくもなく急に口を開いたので、何事かと視線をやってみる。けれど石田はそんな俺のことなど気にした様子もなく、書類に目を落としたまま続きを話し始めた。
「僕、昨日捨て猫を見つけたんだ」
「へえ?」
 わざわざそんな話をするなんて珍しいな。
 そう思いつつ何が言いたいのかわからなくて曖昧に相槌を打っていると、石田はやはり視線を書類に落としたまま、今度はどこか怒ったような拗ねたような声を出した。
「一緒に飼い主を探してくれないか?その猫がいたのが僕の家のすぐ傍だったから放っておけなくて」
 一瞬意味がわからなくて首を捻ってしまったが、よく見ると髪から覗く石田の耳が夕陽のせいではなく赤く染まっていて、俺は思わず笑い出しそうになった。
 つまりこの意地っ張りでいつもツンとしていてお堅い生徒会長様は、俺のことを家に誘っているというわけだ。
 前言撤回、やっぱりこいつは誰よりも可愛い。
「じゃあその猫を見に行くついでに、おまえの家に寄ってもいいか?」
 俺の言葉を聞くと、石田は満足そうに笑って見せた。
「君がそう言うなら、仕方ないから寄らせてやってもいいよ」
 もし今の石田に尻尾が付いていたら、それは嬉しそうに揺れているのだろう。そんなことが簡単に想像できて、俺は今度こそ小さく噴出してしまった。



end

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