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ひとりよがりの恋



「すまない」
 目の前の男は、そう言って深く頭を下げた。竜弦はそれに対して顔色を変えることもなく、露わになった彼の旋毛をじっと見詰めるだけだ。
 いつだってこうだった。
 竜弦は溜息を吐きたいのを堪えながら、静かに自嘲の笑みを浮かべる。
 いつだって自分たちは、こんな風に一方通行な関係でしかなかった。互いが互いを振り回し、自分勝手に行動し、相手はそれに付いていく。もしかしたら好きという気持ちすら、交わってなかったのかもしれない。
 だとしたら、今回だってまた然りだ。一心が起こした行動に、竜弦は付いていくだけ。
「今更何を謝っているのかは知らんが、おまえがそうしたいと思うのならそうすればいい」
 そう言った竜弦に、一心は頭を上げるとどこか諦めたように苦笑した。
「おまえはいつもそうなんだな」
「……何がだ」
「何かをするのはいつも俺からで、おまえはそれに従うだけだ」
「そういう関係を作ったのは、貴様だろう」
 竜弦がどれだけ拒絶しようが、どれだけ嫌がろうが、それでも近付き、触れて、好きだと言ったのは一心だ。いつか別れが来るなら馴れ合う必要がないと言った竜弦を笑い飛ばし、手を握ったのも一心だ。
 だから竜弦は、彼を拒絶するということを諦めるしかなかった。その選択肢しか一心は残してくれなかった。
 けれど、たとえそうだったとしても、いつか別れが来るときに傷付くのは自分自身だとわかっていながら一心の傍にいることを選んだのが竜弦であることには変わらない。一方通行の想いでも、好きということに偽りはなかったのだ。
「それでも俺は、おまえと対等に愛し合いたかったんだよ」
 やっぱり諦めたような苦笑を浮かべたまま、一心は泣きそうな瞳でそう言った。
 いつも太陽みたいな笑顔を浮かべる彼に、そんな瞳は似合わないと竜弦は思う。けれどそんな一心にそういう瞳をさせられるのは、恐らく自分だけだ。これから一心の隣で笑う女は、きっと彼を悲しませるような真似は絶対にしないだろうから。
 そう考えると、少しだけ気分が晴れたような気がした。
「俺にはそれができないと知っていて、それでも愛した貴様が馬鹿だったというだけだ」
 精々自分の愚かさに、一生だって後悔し続ければいい。
「じゃあな……――死神」
 なあ、一心。
 もう永遠に呼ばないであろう男の名前を心の中だけで呟くと、竜弦は口の端に冷酷なまでの嘲笑を浮かべて彼に背を向けた。



 俺がどれだけ愛していたかすら、おまえは知らなかったくせに。



end

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