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うそつき



「私たち友達なんだから、ずっと一緒にいようね」
 笑いながらそう言った君の言葉を、僕は今でも覚えている。



 目の前で泣きそうな顔をして自分を睨み付ける織姫を、雨竜は表情も変えずに真っ直ぐ見詰め返した。まるで、悪いことも後ろめたいことも、何も無いとでも言うように。そんな雨竜の態度が気に入らなかったのか、織姫は叫ぶように言葉を吐き出す。
「私が黒崎君のこと好きだって知っていたくせに……!」
 それは聞く者の胸が痛むような、そんな切実な響きを持つ声だった。織姫のことを知らない人でさえも、この声を聞けば彼女が黒崎という人間のことをどれだけ好きだったのか簡単にわかってしまうだろう。織姫のことを知っている者ならば、尚更強くそう感じる。
 けれど雨竜は、ずっと織姫の近くにいた人間であるにも関わらず、そんなことなどどうでもいいというように首を傾けた。
「知っていたよ」
 だからなに、とでも続きそうな雨竜の態度を目の当たりにして、織姫は怒りと驚きで息を飲む。ずっと友人だと思っていた人間にこんな態度を取られるなんて、思ってもみなかったのだろう。
 雨竜は冷静に彼女の心情を分析していたが、次の瞬間、パアンという鋭い音が二人以外に誰もいない放課後の教室に響き渡った。
 一瞬何が起こったかわからなかった雨竜だったが、頬に鈍い痛みを感じてようやく織姫に平手打ちされたのだということを理解する。殴られた場所に手をやると、ほんのりと熱を持っていた。
「友達だから私のこと応援してくれるって言ったのに……嘘吐き!」
 それだけを吐き捨てるように言うと、織姫は泣きそうな顔で教室から立ち去っていってしまう。雨竜はその背中を何も言わずに見送くると、口元に歪んだ笑みを浮かべた。
 確かに以前、一護との仲を応援してねと織姫に言われたことがある。それは純然たる事実だ。そして雨竜も、その言葉に頷いた。
 だから雨竜はしばらくの間は素直に織姫の恋を応援したし、なるべく一護と織姫の仲を取り持とうとした。
 けれどある日気付いてしまったのだ。一護との距離が縮まるにつれ、織姫が雨竜から離れていっているということに。このまま一護と織姫が想いを交わしてしまえば、織姫が自分を見なくなってしまうということに。
 だから、何度も断り続けていた一護の告白を、つい最近受けてきた。自分は彼のことなんて、これっぽっちも好きではなかったのに。今自分が彼を振れば、いずれ織姫と付き合うことになるだろうということもわかっていたのに。
 そして、こんなことをすれば織姫を失うこともわかっていたのに、だ。
 それでもこのまま織姫が一護のものになってしまうと思えば、そうせずにはいられなかった。
「……うそつき」
 雨竜は誰もいない教室で小さく呟く。
 ずっと一緒にいようって言ったのは、君の方じゃないか。



end

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