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メルト



 雨が降ってきたのは、昼頃からだった。天気予報では一日中晴れだって言っていたのに、下校時刻になった今でもそれは降り続いている。
 靴を履き替えていると、友達や恋人と相合傘で返っていく生徒たちの姿が目に付いた。それが羨ましいとは思わない。ただ、何故だか無性に一人でいるのが嫌になる。一人が嫌だなんて、今まで一度も思ったことなどないのに。そんな感情、今まで知らなかったのに。
 僕は鞄に入れておいた折り畳み傘を取り出して、無意識のうちに溜息を吐いていた。
「今帰りなのか?」
 傘を開いたところで、不意に聞きなれた声がした。振り向くと、そこには案の定黒崎が立っている。近くには浅野君や小島君もいて、一緒に帰るんだろうことが容易に予想できた。
「……見ればわかるだろ」
 黒崎は傘を持っていないけれど、どうせ二人のうちのどちらかに入れてもらうのだろう。そう考えると、どうしても冷たい返事しかできなくなる。
 だけど黒崎は嫌な顔一つしないで、一緒にいた二人に声をかけた。
「悪い、俺ちょっと寄るとこあるから、今日は一緒に帰れねえ」
 そうして二人の反応を待たずに、黒崎は悪戯っぽい顔で僕に笑って見せた。
「一緒に帰ろうぜ」
 瞬間、僕はその笑みから目を話せなくなる。
(――もう、駄目だよ)
 頭の中で、声がした。泣きそうな、諦めたような、それでもどこか愛しさの含んだ自分の声。
 わかってるよ。
 僕は心の中だけで返事をする。
 きっともう、逃げられない。目を背けることも、知らないふりをすることだってできないだろう。一生だって、囚われ続ける。
 君という、存在に。
「……しょうがないから入れてあげるよ」
 この想いが報われるのかなんてわからないけれど、とりあえず僕はこの小さくて大きな幸せに身を委ねることにした。



end

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あきゅろす。
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