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11月7日



 橙色と漆黒が仲良く並ぶ光景に、水色は素直に頬を緩めた。男同士なんて関係なく、二人はお似合いだと思う。
 雨竜が一護のことを好きだということには、随分と前から気付いていた。一護が雨竜を昼食に誘った時からお互いに意識はしているようだったが、雨竜のそれが好意に変わったのは何時からだっただろうか。初めは気のせいかもしれないとも思ったのだが、一護を見る雨竜の瞳に浮かぶ熱は隠し切れていなくて、水色は確信せざるを得なかった。
 もちろんそのことにも驚いたが、水色を一番驚かせたのは一護の視線だ。
 去る者追わずがスタンスであるはずの一護なのに、視線はいつも雨竜を追っていた。しかも一護は、それを無自覚でやっている。恐らく、自分の気持ちにも気付いていないのだろう。
 お節介であるということはわかっていた。自分らしくないということにも気付いていた。それでも水色は、自分の嫌いなところを初めて認めてくれた友人と、そんな友人が思いを寄せる彼を、どうにかして幸せにしてあげたかったのだ。
「おはよう、一護、石田君」
 後ろから近付き声をかけると、二人は揃って振り向き、少々気まずそうに各々挨拶を返してくれる。一護の首には、昨日まではなかった黒い手編みらしきマフラーが、誇らしげに巻かれてあった。
 この様子だと想像以上にうまくいったんだなと、水色は内心でほくそ笑む。
「あのさ、水色。罰ゲームのことだけど」
「うん、クリアーしたんだね」
 言い辛そうに切り出した一護の言葉を、水色はお得意の笑顔で遮った。一護が本当は何を言いたいのかなどは、当然お見通しである。
「あのね、一護。一護が石田君を好きなことくらい、最初から知ってたんだよ」
「な、な、水色おまえ……!」
 動揺して狼狽える一護に、水色はさらに追い打ちをかける。
「というか、そうじゃないとあんな罰ゲームをやらせようなんて思わないよ」
 今度こそ絶句した一護を無視して、一護程ではないがそれなりに驚いている雨竜に笑って見せた。
「誕生日プレゼントには、なったかな?」
 悪戯っぽく笑って、雨竜を上目遣いに見る。雨竜は僅かに目を見開いてそんな水色の顔を凝視していたが、やがて困ったように小さく微笑んだ。
「うん。……多分、今までで一番嬉しかった」
 隣を歩いているというのにともすれば聞き逃してしまうほど小さい声ではあったが、浮かべた笑顔が本当に幸せそうで、水色は気付かれない程度に目を瞠る。
 今までの雨竜からは考えられないくらい穏やかで優しくて幸せな笑顔だ。きっと、一護という存在がその笑みを生み出して、いや、思い出させてくれたのだろう。
「そっか、それは良かった」
 つられて笑顔になった水色に、雨竜はありがとうと呟き、やっぱり小さく笑ったのだった。
 けれどその穏やかな雰囲気を壊したのは、さっきまで絶句していた一護である。
「誕生日ってなんだよ」
「あれ、一護知らなかったの?昨日、石田君の誕生日だったんだよ」
 さらりと水色が言うと、一護は眉間の皺をいつもの倍にして雨竜に詰め寄った。
「おまえ、なんで言わないんだよ!」
「言う暇なんてなかったじゃないか!というか、もう貰ったからいいんだよ!」
「貰ったのは俺の方だろ!」
「僕がいいって言ってるんだからいいじゃないか。君も大概しつこい奴だな」
「話を逸らすな!」
 いつも通りの会話である。知り合ったときからしているような、喧嘩腰の会話。けれども今日のは何処か甘さが混じっていて、水色は思わず苦笑してしまった。
 こんな二人の間にいたら、その無自覚に甘い雰囲気に当てられてしまう。
 これ以上関わるのは御免だとばかりに、水色は二人よりも少し先を歩き始めた。
 騒がしい友人たちの声は、きっと学校に着くまで途絶えることはないだろう。
 けれど、今日くらいはそれもいいかもしれないと思いながら、水色は学校への道を急ぐことにした。



 できるのなら、二人が永遠に幸せでありますように。



end

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あきゅろす。
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