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もう恋は始まっていた
 







出会いはよく覚えていない。物心ついたときから一緒にいるのが当たり前だった。
ユキは幼い頃から美しかった。そして、僕は当然のようにユキの隣に居て、そこから離れることなんて考えもしなかった。


「中学に上がったというのに、また同じクラスですね、アメ」

「ほんとだね、ユキ!」

「いい加減、うんざりです」

「もう、意地悪なこと言わないでよ!僕はすっごく嬉しいのに!」


休み時間。窓のカーテンに寄りかかって、ユキはため息をついた。幼稚園から小学校卒業まで、一度もクラスが離れなかった。中学ではさすがに離れるだろうと思っていた矢先、また同じクラス。
ユキは「呪われてる」と漏らしていたが、僕はそうは思わない。これはただの運命だ。赤い糸が、僕らを結んでいるだけ。なんて。まるで、恋人みたい。

なんだか恥ずかしくなって、僕は勢い良く窓を開けた。優しい春の風が吹き込んでくる。桜の花びらがふわり、ユキの髪に舞い降りた。


「ぬるい風」

「もう春だからね」


そう言いながらユキの髪にくっついた花びらを取った。
ユキの視線はゆっくり窓の外から僕へとシフトする。


「迷惑は、かけませんから」

「え?」

「小学校の時みたいに、暑くて倒れたりしない。貴方には、もう迷惑はかけません」


カーテンが揺れる。制服を着たユキは随分と大人びて見えた。

僕から離れていくような錯覚を覚えるくらいに。

そう思うと無性に寂しくなった。今まで一緒にいたのに、急に遠くなったみたいで。
耳の奥で心臓の音がうるさい。全身が心臓になったようにドクドクと脈打っている。得体の知れない恐怖が僕を襲った。

ふと、遠くでチャイムの音が聞こえた。なのに僕は何故だか動けないでいる。


「アメ、授業始まりますよ」


ユキの声に促されてなんとか自分の席に戻った。それからの授業は、何も頭に入らなかった。先生の声も、黒板の文字も、何も。
たまに視界の端に映り込むユキの後ろ姿だけが妙にクリアに頭の中に焼き付く。

ユキの隣の女の子、さっきからユキの方ばっかり見てるなぁ。なんで、どうして。ユキは僕のものなのに。見ないで、そんなうっとりした表情で、見ないで。


(ああ、そうか)


長い間一緒に居すぎて考えもしなかった。僕がユキをどう思っているか。
“幼馴染み”という言葉で括られた関係。でも、今の僕はそんな言葉では納得できない。もっと違う関係を望んでいる。
…いや、それは今に始まったことではないのかもしれない。

不意にユキがこちらを振り返った。相変わらず綺麗な顔だった。見慣れたユキの顔。なのに、僕の鼓動は高鳴っていた。

僕は頬杖をついて、時計を見た。僕らが一緒に過ごした時間全部、僕はユキが好きだった。その感情の名前を間違っていただけだ。

これは“友情”なんかじゃ収まらない。それに今、気がついた。


(もう、恋は始まっていた)


チャイムが鳴る。僕は何故だか無性に走り出したい気持ちでいっぱいだった。







end.







甘酸っぱいがテーマ。










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あきゅろす。
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